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「…あ」

思わず上げてしまった声を抑えようと慌てて口を押さえたけれど、二宮さんにはばっちり聞こえてしまったらしい。一瞬かち合った視線を先に逸らしたのは二宮さんだった。どこか気まずげに見える横顔にピンときて、隣の米屋と顔を見合わせる。口の端を吊り上げた米屋もおれと同様勘付いたらしい。二人してニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら、人混みをかき分けて壁際に立つ二宮さんに近付いた。





融解犯





「二宮さんこんにちはー、偶然ですねえ」

返事の代わりに舌打ちが飛んできた。あっちに行けと言わんばかりに睨み付けられたけれどちっとも怖くない。米屋がわざとらしく「一人ですか?」なんて首を傾げる。

「…………人を待っている」

たっぷりの間の後、二宮さんは硬い声でそう呟いた。

「へえ、誰ですか?太刀川さん?それとも堤さん?」
「誰だって良いだろう」
「全然良くないです。もし加古さんが相手なら咲菜さんに報告しなきゃだし」
「そうそう、旦那が浮気してましたよーって」
「誰が、」

「誰が旦那だ」と言いたかったのか、はたまた「誰が浮気なんかするか」と言おうとしたのか。個人的には後者であってほしいところだが、二宮さんは下唇を噛んで言いかけた言葉を飲み込んでしまった。

「……おまえらいい加減どこかへ行け。暇なのか」
「暇です。もう解散しようと思ってたし」
「帰れ」

眉を吊り上げてそう言い捨てた二宮さんは次の瞬間、「二宮さーん」と自身の名を呼ぶ女子の声に反応して、すぐさまおれたちから視線を外した。

「すみません、レジが混んで……って、え?二人とも、何して」

きっとおれたちのことなんて眼中になかったのだろう。二宮さんに続いてそちらに視線を向けたおれたちを見て、咲菜さんが気まずそうに顔を顰めた。一方の二宮さんはようやく姿を現した待ち人に小さく息を吐くと、壁から背を離して咲菜さんの隣に立つ。

「行くぞ」
「えっ!?あ、はいっ」

二宮さんは半ば強引に咲菜さんの手から紙袋を取り上げると、何か言いたげな様子の咲菜さんを連れて人混みの中に紛れてしまった。

「やべー、ちょっと調子に乗りすぎたな。明日蜂の巣にされるかも」
「にしても最後の見たか?二宮さんとファンシーな紙袋。ミスマッチすぎだろ」
「言うな槍バカ。あれは早く立ち去りたかっただけで紙袋のデザインなんてきちんと見てないから」

翌日、珍しく二宮さんから直々に個人戦に誘われたと思いきや案の定蜂の巣にされたおれたちは、二度と面白半分で二宮さんを揶揄うまいと心に決めた。

title/花洩


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