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二宮さんと一緒に帰る約束をしていたので、二宮さんの防衛任務が終わるまでラウンジで待つことになった。そろそろ来る頃だろうかと時計をちらりと見上げたところで、コートのポケットからバイブ音が聞こえる。二宮さんからの電話かと思いきや表示された名前は「お母さん」だった。今日は帰りが遅くなるから夕飯は自分で調達するように、と告げられる。

「はーい。お仕事頑張ってね」

両親の仕事が忙しくて夕飯がないと言うのは、我が家では割とよくある話だ。料理があまり得意ではないのと、たとえ作ったとしても帰りが遅くなった日の二人は夕食を取らずに入浴だけ済ませて寝てしまうことが殆どなので、こういう時はスーパーで割引されたお惣菜を買って帰ることが多い。

「うーん…でもなあ、今日はイタリアンな気分だし冷食のパスタにしようかな」

ついでにデザートでプリンも付けよう。そんなことを思いながら、私はスマホをポケットに仕舞った。





モダンガールの焦燥





「咲菜」

スマホを仕舞ってすぐ、背後から二宮さんの声がした。振り返るや否や、わしゃわしゃと頭を撫でられる。

「悪い、だいぶ待たせた」
「全然平気です!任務お疲れ様でした」
「ああ」

されるがままになっていると、手櫛で私の髪を整えた二宮さんが、ソファに置いたままになっていた私の鞄を手に取った。

「おまえまた夕飯ないんだろう。俺で良ければ付き合うが」
「えっ、あっ…!また電話聞いてました!?」

いつぞやと同じ展開に恥ずかしさでいっぱいになった。前回と言い今回と言い、全く家庭的な女の子アピールが出来ていない。パスタを茹でるくらい、私にだって出来るんだから。……たぶん。





二宮さんが連れて行ってくれたのは、初めて二人きりで夕飯を食べに行った時と同じお店だった。あの時は空気が重すぎたせいで味どころか何を食べたのかすらよく覚えていないけれど、そういえばイタリアンのお店だった。どうやら私の「今日はイタリアンな気分」という呟きも二宮さんはきちんと聞いていたらしい。

「パスタが食べたいと言っていたな。ピザもあるがどうする?」

二宮さんがそう問いながら、私が見やすい向きにメニューを広げた。私は恥ずかしさのあまり曖昧な返事しか出来ず、結局二宮さんの提案でパスタコースとピザコースを一つずつ注文し、シェアすることになった。

二宮さんはあまりおしゃべりなタイプではないので、私がこのまま羞恥心に身を任せて無口になると、いつぞやのようにあまり良くない空気で食事をすることになってしまう。何か話題を、と思ったけれど、こんなお洒落なお店で学校の話やボーダーの話をするのは何だか違う気がする。どうしたものかと悶々としながらメニューを片していると、ラミネートされたメニュー表が一枚テーブルに滑り落ちた。

「へえ、お酒ってこんなに種類があるんですね」

思ったことをつい口にしただけだったけれど、二宮さんは「ああ」と呟いて、「飲み放題」と書かれたメニューに視線を落とした。

「まあ、イタリアンだからな。日本酒や焼酎は種類が少ないが」
「名前を聞いただけじゃどんなお酒か分からないです。カシスオレンジとかカルーアミルクは何となく想像できますけど……。あ、オペレーターって何のお酒でしょう。耳馴染みがある単語なのでちょっと気になります」
「白ワインをジンジャーエールで割ったカクテルだ。スッキリしていて飲みやすい」

流石二宮さん、ジンジャーエールを使ったお酒は経験済みらしい。ジンジャーエール大好きだなあ。と、ちょっと笑ってしまいそうになった。

「じゃあ、二十歳になったら一番最初にオペレーターを飲んでみようかな。二宮さんのオススメだし」
「おまえはカルーアミルクの方がいいんじゃないか?カフェオレみたいな味だ」
「おお…!飲んでみたいです!」
「二十歳になったら、な」

二宮さんはそう言って、飲み放題メニューをフードメニューの後ろに隠した。未成年にお酒に興味を持たせるのはあまり良くないと思ったのかもしれない。

「……早く二十歳になりたいなあ」

二歳差というのは、意外と大きな差だと思う。
二宮さんと私の、二歳という差。大学生と高校生。20歳と18歳。出来ることと出来ないこと、許されていることと許されていないこと。そういうことがたくさんあって、たまに嫌になることがある。特に二宮さんには、気を遣わせてばっかりだ。今のことも勿論そうだけど、飲み物を注文する時、二宮さんはジンジャーエールを頼んでいた。東さんや加古さんと一緒だったら、お酒を注文しただろうに。

「……急いで大人にならなくてもいいだろう」

二宮さんが頬杖をついて私に視線を向ける。少しだけ薄暗い店内で、普段よりずっと優しい視線を向けられるのは、とても心臓に悪い。

「きちんと待てる」

待てるって。待てるって、それ、勿論お酒の話ですよね?それ以上の意味はないですよね?なんて、そんな馬鹿な質問が出来るはずがない。

「……じゃあ、私が二十歳になったら、一緒に飲んでくれます?」

当たり障りのない返事を絞り出すと、二宮さんは唇の端をほんの少し吊り上げた。

title/箱庭


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