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※時間軸的に本編1話〜4話くらいまでの話。










オレを蹴落として咲菜ちゃんを蜂の巣にした二宮さんは、すぐにカゲ相手に苦戦していた辻ちゃんの元に向かった。トリオン体なのだから痛くもないけれど、思わず「いてて…」と呻きながら立ち上がる。

『犬飼先輩、大丈夫ですか』
「うん、へーき」

ひゃみちゃんにそう返して、蹴落とされた拍子に手から離れてしまった銃を拾い上げる。
確かに最近の二宮さんは模擬戦のたびに咲菜ちゃんばっかり狙っていたけど、今回みたいにわざわざ味方を蹴落としてまで咲菜ちゃんを落とそうとしたのは初めてだった。二宮さん、いつから咲菜ちゃんのこと嫌いになったんだろ。なんて思っていたのは最初だけで、今では気になる女子に振り向いて欲しい小学生男子にしか見えなかった。本人には口が裂けても言えないけど。





焦点距離と観測事情





少し前を歩いていた二宮さんがぴくりと反応した。何を見つけたのだろうと前方に視線を向けると、俺たちの少し先を山室先輩が一人で歩いているのが見えた。こういうとき、以前であれば二宮さんが山室先輩を呼び止めて二人仲良く他愛のない話を繰り広げていたけれど、最近ではそういう姿はめっきり見ていない。後ろから二宮さんの顔をそっと窺えば、二宮さんは山室先輩を真っ直ぐに見つめていた。一瞬開かれた口は何を呟こうとしたのだろう。すぐに口を閉ざした二宮さんの代わりに、犬飼先輩が「おっ」と声を上げる。

「やっほー咲菜ちゃん」

ちょっ、と声を上げてしまったのは許してほしい。何があったのかはよく知らないけれど、二宮さんと山室先輩が以前のような仲ではないのだということは、犬飼先輩だってよく知っているはずなのに。わざわざ呼び止めるなんて一体何を考えているんだ。

犬飼先輩に呼ばれてこちらを振り返った山室先輩は、一瞬気まずそうな顔をしたものの、こちらに小さく会釈をした。その瞬間、二宮さんの手から書類やらレポートやらが床一面に滑り落ちる。わお、ぐちゃぐちゃ。なんて呟いた犬飼先輩にいいから拾うのを手伝ってくださいと言った自分の声は、きっと苛立ちを隠せていなかったに違いない。

本当は二宮さんに近づくことすら嫌だろうに、律儀な山室先輩は一緒に書類を拾い集めてくれた。駆け寄ってくる山室先輩の姿に一瞬二宮さんの動きが止まったことを、床に散らばった書類に視線を落とす山室先輩はきっと気付いていない。

二宮さんは山室先輩から差し出された書類を勢いよく奪い取った。その反応はあんまりだろうと二宮さんの名前を呼んだが、二宮さんがそのまま歩きだしてしまったので、俺は慌ててその後ろ姿を追う。途中で犬飼先輩が付いてきていないことに気付いたけれど、きっと山室先輩にフォローを入れているのだろうと勝手に期待しておいた。

まさか犬飼先輩が、二宮さんと山室先輩が鉢合わせするように仕向けていただなんて夢にも思わずに。



***



『おつかれ。シュークリーム作って来たけど、どうしたらいい?』

咲菜ちゃんからのラインに、それまでダラダラとケータイを弄っていたおれはおっ、と声を上げて姿勢を正した。

『作戦室まで持って来てー』

『誰もいないから一人で留守番中(`・ω・´)』

既読は付いたけど返事はなかった。咲菜ちゃんのことだから、二宮さんと鉢合わせしないようにどこかで待ち合わせしたかったんだろうな。

「うーん、ごめん咲菜ちゃん」

呟いた直後、作戦室のドアが開く。現れた二宮さんに「お疲れ様です」と声を掛けて、おれはトーク画面を閉じた。
ごめんね咲菜ちゃん、嘘じゃないんだよ。だって今まで本当に一人だったし。
もうすぐ二宮さんが来るって、知ってたけど。



「咲菜ちゃんいらっしゃーい!さ、お茶でも淹れるから入って入って」
「いやいいよ…。任務明けであんまり寝てないから今日はもう帰って寝るつもりだし」
「ってことは暇なんでしょ?じゃあちょっとくらい相手してよ」
「ちょっ…!ねえ私の話聞いてた!?」

二宮さんと出くわす前に帰りたいんだろうけど、ここで咲菜ちゃんを門前払いしたらあとで二宮さんに怒られる。嫌がる咲菜ちゃんの腕を引っ張って作戦室の中に無理矢理引きずり込んだ。

「ちょっとくらいいいじゃん。ねえ二宮さん?」

二宮さんの名前を出した瞬間、咲菜ちゃんの動きが止まった。えっ、と呟いた咲菜ちゃんが、おそるおそるといった様子で二宮さんに視線を向ける。何で、ひとりって言ったのに、ともごもご言っていたけど、聞こえないフリをした。

「手土産もあるんですよー。ちょっとくらいいいですよね?」
「……好きにしろ」

二宮さんは素っ気なくそう言うとすぐに咲菜ちゃんから視線を逸らした。が、伊達に長い付き合いではないので、久々に咲菜ちゃんが自分のテリトリーにやって来てそわそわしているのが丸分かりである。
震える咲菜ちゃんの腕からそっと手を離して背中を押す。この機会に少しでもいいから、またあの頃みたいに仲良くしてくれないかなあと。そんな淡い期待を胸に抱きながら。

title/花洩


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