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「咲菜ー!」

大きな声で呼ばれたと思ったら、ドン!と後ろから体当たりするように抱き着かれる。私は咄嗟に体勢を整えることができず、前にいたカゲの背中で強かに顔面を打ち付けた。

「わりい咲菜、大丈夫か!?」
「だ、だいじょうぶ……いやちょっと待って、私の鼻潰れてない?」
「ああ?元からぺしゃんこだから心配すん、っいってぇ!!」

失礼なことを言うカゲの脇腹にグーパンチをお見舞いしてやった。





日常ドメスティック





うちの男共は咲菜のこと好きすぎるだろ、とあたしは常々思っている。普段はぞんざいな扱いをしたり弄ったりして遊んでいるくせに、咲菜が怒ったり泣いたりするようなことがあれば途端に過保護になるのだ。

「なるほど、それはカゲが悪いね」
「そうだね、ちゃんと咲菜さんに謝ったの?」
「ああ?どう考えても咲菜のスペック考えずに飛び掛かったヒカリがわりぃだろ」
「まあそれもそうだけど。でもヒカリはちゃんと謝ったんでしょ?」

ユズルの問いかけにもちろん、と返す。するとゾエが、「ほらあ、じゃあカゲも謝らないと!」とカゲを叱った。最早チームメイトと言うより母親や先生のような言い方である。

「で、肝心の咲菜さんはどこ行ったの」
「さあ…。カゲの腹にグーパン決めたあと怒ってどっか行った」
「ふーん」

興味なさげな反応を返しつつ、咲菜のことが気になるのだろう。ドアの方へと一瞬視線を向けたユズルは、そのあとすぐにあたしと目が合って気まずげに顔を歪める。

「……ていうか咲菜さん、鼻が高いとか低いとか気にしてたんだ。そんな素振り見たことなかったけど」
「例え本人が気にしていなかったとしても、冗談でも容姿のことで女の子をからかっちゃダメだってこと。カゲも分かった?」
「うっせー、母親かよおめーは」

それまで偉そうにソファの上でふんぞり返っていたカゲが立ち上がった。そのまま作戦室から出て行こうとするので、どこに行くつもりだとカゲを呼び止める。ドアの前でこちらを振り返ったカゲは顔の下半分をマスクで覆っていたので、あたしたちにはいつもの鋭い目元しか見ることができない。

「どこでもいいだろ。散歩だよ、散歩」

唸るようにそう言ったカゲに、ああ、咲菜を探しに行くのか、と生温い視線を送る。恐らくゾエとユズルも同じような視線を向けていたのだろう。カゲは思い切り舌打ちを打つと、肩を怒らせて作戦室から出て行った。



***



「おい」

後ろから襟首を思い切り引かれて一瞬息が詰まった。ぐえ、と女性らしからぬ声を上げながら、何事かと後ろを振り仰ぐ。

「びっ、くりしたあ…。どうしたのカゲ」
「どうしたのっておめー……」

マスクを付けていてもカゲが顔を引き攣らせたのが分かった。カゲらしからぬ反応に首を傾げると、物言いたげな視線を向けられる。

「…………って、じゃ」
「え?」
「あーくそっ、何でもねー」
「ちょっと、なんっ……何?何なの!?」

わっしゃわっしゃと髪をこれでもかと掻き乱されて困惑していると、「行くぞ」と今度は腕を引っ張られる。

「分かった、分かったから引っ張らないで!痛いから!!」
「おめーは相っ変わらずキャンキャンうっせーな」

ボサボサになった髪の毛を整える暇も与えられず、腕を捕まれたまま廊下を引き摺られていく私は周りからどのように見えるのだろう。どこからともなく聞こえてきた「え、犬の散歩…?」という感想は聞こえなかったことにする。





「あ、おかえりー。よかった、ちゃんと仲直りできたみたいだね」

カゲと一緒に作戦室に戻ると、どこかホッとした様子のゾエに出迎えられた。仲直りって?と訝しげな顔をした私の隣でカゲが鬱陶しそうにマスクを外すと、ユズルの隣にドカッと腰を下ろす。

「あれれ?どうなってるのカゲ」
「知らね。そこのバカに聞け」
「咲菜ちゃん、カゲと喧嘩したんじゃないの?」

バカって私のこと?とムッとしつつ、ゾエの言う喧嘩について頭を捻る。

「……喧嘩ってもしかして、さっきカゲが私のことを顔面ぺしゃんこって悪口言ったこと?」
「誰もおめーの顔面がぺしゃんこだなんて言ってねーし」

喧嘩と言うほどでもないけどな、と思い至った悪口を口にすると、すかさずカゲが言い返してきた。なるほど、様子が可笑しかったのは私が気にしてると思ったからか。

「怒ってた…んだよ、ね?だからどっか行ったんじゃないの?」
「え?別に……カゲの口が悪いのはいつものことだし、そんなことでいちいち腹を立ててたら同じチームでやっていけないでしょ」

ぽかーん、という表現がピッタリなゾエの向こう側で、カゲがはあ!?と声を荒げた。その隣でユズルが、呆れたような顔で溜め息を吐く。

「おっめー、オレがどんな気持ちで探しに行ったと」
「おいカゲ、散歩じゃなかったのかよ」
「うるせーヒカリ黙ってろ」

ヒカリちゃんに茶々を入れられたカゲが噛み付いた。尤も、自分の立場が悪くなったカゲがこうして噛み付くのもいつものことなのでヒカリちゃんが怯む様子はない。

「なあに、カゲ。私のこと探しに来てくれたの?」
「ちげーし散歩しに出ただけだっつーの。っおい、んな気持ちわりぃ感情向けてくんな!」

気色わりぃ!と叫ぶカゲに、はいはい、とゾエが適当な返事を返す。すっかり臍を曲げてしまったカゲの頭を後ろからわしゃわしゃと掻きまわすと、触んなと唸るように言われたけれど、振り払う素振りは見せなかったので、私は目が合ったヒカリちゃんと二人で思わず吹き出してしまった。

title/twenty


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