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「ん」

半ば押し付けるように渡されたそれを反射的に受け取る。突然のことに困惑する私の頭をわしゃわしゃと撫でると、二宮さんは一言、「やる」と言ってくるりと背を向けた。

「あ、ありがとう、ございます…?」

去り行く背中へそう声を掛け、手元に残された箱に視線を落とす。箱の形的にケーキ、かな。今までは二宮隊のみんなのついで、みたいな感じで食べさせてもらっていたのに、こんな風に個人的に渡されたのは初めてだ。

作戦室に戻ってそっと蓋を開ける。箱の中身はチーズケーキだった。





未完成のやさしい曲線





個人的にチーズケーキを貰ったあの日以降、二宮さんは私と顔を合わせるたびに色々なものをくれるようになった。
例えば昨日は期間限定のコンビニスイーツ。
一昨日はいつものケーキ屋さんのフルーツタルト。
その前はボーダーから帰る途中に某コーヒーチェーン店に寄って期間限定フラペチーノを買ってくれたし、さらにその前の日はなんと、二宮さんのお母さんお手製のマカロンをもらってしまった。そして今日は。

「…ん」

二宮さんが私に向かって突き出した紙袋には、誰もが良く知る某高級チョコレート店のロゴが書いてある。さすがに受け取ることを躊躇した私に、二宮さんはきゅっと眉を寄せた。

「甘いものは全般好きなんだと思っていたがこれは嫌いだったか」
「いえ、いつか食べてみたいなって憧れてましたけど…」
「けど?」
「さすがに高すぎま、せん…?」

二宮さんは何言ってんだこいつ、と言わんばかりの顔で私を見て、それから手元の紙袋に視線を落とした。少しの間じっと紙袋を見つめたあと、あー、あれだ、と呟く。

「貰いものだ」
「二宮さん、誤魔化すならもうちょっと真面目にお願いします。さすがに嘘だって分かります」

二宮さんが舌打ちを一つ零した。いつもなら騙されるくせに、などと聞き捨てならない言葉が聞こえてきたので聞き返したけれど、口を噤んでそっぽを向かれてしまった。

「あの、一つ質問なんですが……」
「……何だ」

二宮さんが唸るように返事をした。相変わらず視線は逸らされたまま、こちらを見る気配がない。これは臍を曲げられてしまったかもしれないな、と思いながら、えっと、と呟く。

「どうして最近の二宮さんは、こうやって私が喜びそうなものを用意してくれるんですか?」

二宮さんをじっと見上げると、しばらくそっぽを向いたままだった二宮さんは視線だけを一瞬こちらに向けた。それから観念したように溜め息を吐いて、口を開く。

「…………、」
「えっ?」
「自分で考えろ」

私の胸に紙袋を押し付けると、二宮さんはすれ違いざまに私の頭をいつもより強めにき乱して、そのまま廊下の向こうへと去っていった。

「……って、どうしよう。受け取っちゃった」

今から二宮さんを追いかけて返したら受け取って貰えるだろうか。いやでも、せっかく用意してくれたのに二宮さんの好意を無下にするようで申し訳ない気もするし…。
廊下のど真ん中で立ち尽くして悶々と悩んでいた私はさぞ怪しく見えたのだろう。後ろから怪訝そうな声に名前を呼ばれて、私は壁際へと飛び退くように振り返った。

「あ、い、犬飼…」
「どうしたのこんなところで。また二宮さん関連で悩み事?」
「いや、あの……まあ、そんなところ」
「貢がれて困ってるって?」

思わず犬飼を二度見してしまった。犬飼は私が胸に抱いていた紙袋のロゴに目敏く気付くと、「うっそゴ〇ィバじゃん!」と目を丸くする。

「押し付けられました……」
「あはは…。まあ、二宮さんの気がそれで済むなら付き合ってあげなよ。あれでだいぶん気にしてるみたいだからさ」
「気にしてるって?」

そう尋ねると犬飼は、マジかよと言わんばかりの顔で「分かんないの?」と尋ねる。

「分かんない。どうして私が喜びそうなものを用意してくれるんですかって聞いたんだけど…」
「聞いたんかーい」
「でも自分で考えろって言われちゃた」
「答え出てるじゃん。喜ばせたいんだよ、咲菜ちゃんを」
「いやだから、どうして?」
「どうして!?」

犬飼は素っ頓狂な声を上げると、壁を背に立つ私にずいっと詰め寄る。

「彼女を喜ばせるのに理由がいる!?しかもずっとギスギスしてて、ようやく手中に収めた彼女だよ!?オレだって二度と手元から離れていかないように構い倒すね!」
「あ、はい…」

犬飼の剣幕に負け、紙袋をぎゅっと抱きしめたまま返事をする。犬飼は呆れたように息を吐いて私から身を引いた。

「とにかく、咲菜ちゃんが気にしてたのと同じくらい二宮さんも気にしてたってこと。分かった?」

犬飼の言葉にうん、と小さく頷く。胸の奥に生じた何とも言えないくすぐったさと一緒に、紙袋をぎゅっと抱き込んだ。

title/サンタナインの街角で


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