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誰かの手のひらで視界を覆われたあと、耳元で「だーれだっ」と弾んだ声が聞こえた。あたしはクスクス笑いながら、大好きな親友の名前を舌の上で転がす。パッと視界がクリアになったので後ろを振り返ると、言い当てられたにも関わらず咲菜ちゃんは満面の笑みを浮かべていた。





あなたの隣の私が言うには





「咲菜ちゃん今日すっごくかわいいね」

今日の咲菜ちゃんは先月二人で出かけたときに買ったワンピースを着ていて、髪の毛も綺麗に編み込まれていて、色付きのリップを付けている。かわいいと褒めると、咲菜ちゃんは照れたように笑って、「鳩ちゃんとお出かけだから気合い入れてきた!」と言った。

「でもちょっと待たせちゃったね、ごめん」
「いやいや、時間ピッタリだし。あたしが早く着いちゃっただけ」

しゅん、としてしまった咲菜ちゃんに、「混む前に早く行こう」と言って腕を引く。咲菜ちゃんはすぐに表情を明るくして、うん!と声を弾ませた。

「楽しみだね、ケーキバイキング。いくつ食べられるかな」
「軽いものから食べるといいってひゃみちゃんが言ってたよ。ゼリーとかプリンとかから攻めるといいらしい」
「なるほど。勉強になります、氷見先生」
「それから、山室先輩の大好きなチーズケーキは重いから最後ですよ、だって」

ひゃみちゃんから頼まれた伝言を伝えると、咲菜ちゃんは「そんなあ…」と悲しそうな声を上げる。本当だったらひゃみちゃんも一緒に来られたらよかったんだけど、咲菜ちゃんと話すのはまだまだ緊張するみたいで、断られてしまった。

「ていうか、二宮さんと行かなくてよかったの?咲菜ちゃんがお願いしたら絶対一緒に来てくれたと思うけど」
「だって二宮さんって甘いものそんなに好きじゃなさそうだし…」

そうだね、たしかに。だけど咲菜ちゃんから誘われたなら無理してでも来たと思うよ。あの人、咲菜ちゃんのこと大好きだから。
喉元まで出かかった言葉はごくりと飲み込む。これは当人たちの問題なのだからあたしが口を出すことではない。よく犬飼と「早くくっついたらいいのに」って話してるけど、本当に咲菜ちゃんが二宮さんと付き合い始めたらあたしと過ごす時間が減っちゃうだろうし、それは何だか面白くない。

「それにほら、ケーキみたいな高カロリーなものをいっぱい食べるところなんて見られたくないじゃん」

咲菜ちゃんが唇を尖らせる。いやいや、二宮さんならそんな咲菜ちゃんを見ても引くどころかそのまま餌付けに走ると思うけどなあ。それこそ余計な心配だと思いつつ、まだ咲菜ちゃんの隣を二宮さんに譲りたくないあたしは、そうだね、と言って口元をきゅっと引き結んだ。

title/花洩


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