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ひらり。バックワームが翻って、真っ赤な隊服が見えた。すぐさまイーグレットを構え直して引き金を引く。

『命中 397m』

訓練終了まで残り5分。ギリギリだったけど無事に佐鳥を見つけられたことに安堵して、私は物陰に隠れたまま大きく息を吐いた。





どうでもよくないわけない





来馬先輩が「影浦隊のみんなで食べてね」と太一に持たせてくれた差し入れを、太一が転んだ拍子に押しつぶしてしまったらしい。
太一に持たせた時点で来馬先輩もある程度は予想していたんだろう。差し入れの中身はケーキやプリンのような柔らかいものではなく、頑丈な缶に入ったクッキーだった。多少割れてはいたものの粉々にはなっていなかったので、ひたすら謝ってくる太一を慰めつつ狙撃場に向かった。

「先輩たちからあんなに、転ばないように気を付けてって言われてたのに…」
「でもほら、そんなに割れてなかったでしょ?口に入れば一緒だって」

カゲもゾエも「食べられればそれで良し」みたいなタイプだ。割れたクッキーを見ても文句は言わなかったし、むしろ私たちが訓練から戻る頃には殲滅されているんじゃないだろうか。「口に入れば一緒だから」とこの数分で何度目になるか分からないフォローを入れていると、後ろから「山室先輩ってばそんなに食い意地張ってて大丈夫なんですか?」と失礼な声が聞こえてきた。

「だからダイエットとかしなくちゃいけなくなるんですよー」

ここで怒り散らしては大人げない。落ち着け、と自分に言い聞かせながら、拳を握りしめて後ろを振り返る。女性相手に失礼極まりない発言をした佐鳥はヘラヘラと笑っていて全く悪びれた様子がない。

「えー!山室先輩ダイエット中なんですか!?すみません、俺たち知らなくって…!」

佐鳥のせいで太一まで大きな声でそんなことを言い出した。何人かがこちらを振り返ったのが分かって、私は太一の頭をべしりと叩いた。

「あのねえ、別にダイエットとかしてないから」
「またまたー。こないだ食堂で、ダイエット中だから売店でおにぎり買ってくるとか言ってたじゃないですか」
「あれはお金がなかったの!あのあと二宮さんからもらった500円でちゃんとランチ食べてたでしょうが!」

私が何と言おうが佐鳥には通じないらしい。口では「はいはい分かってますよー」なんて言ってはいるものの顔が完全に笑っている。その後も私が何と言おうと佐鳥は全く悪びれもせず、訓練開始5分前のアナウンスを聞いてささっと居なくなってしまった。

「あ、あの…山室先輩顔…」
「……許さん」
「ヒッ」
「佐鳥殺す」

握り締めたトリガーがミシミシと音を立てる。隣で悲鳴を上げた太一を連れて、私も佐鳥に続いて訓練ブースに向かった。





「珍しいな、おまえがそんな順位なんて」

本当に珍しいと思っているのだろうか。いつもとちっとも変わらない声色と表情で穂刈がそう言った。たしかに目標を絞りすぎたせいで普段よりだいぶん順位が低い。

「ちょっといろいろあって」

個人的に佐鳥にムカついて訓練中ずっと探してたから、なんて言えるはずがない。そう思って言葉を濁したのに、半崎がしれっと「佐鳥を探してたんじゃないですか?」と言い出した。

「佐鳥?」
「山室先輩がダイエット中だってみんなの前でバラしてました。まあ大声で言ったのは佐鳥じゃなくて太一だったんすけど」
「何だ、ダイエット中だったのか、山室」
「違う!」

納得したかどうかは置いておいて、紳士な穂刈は「そうか」と頷いたきりそれ以上何も言わなかったけれど、この後荒船や当真たちにまで同じネタで揶揄われた私は、とうとう我慢出来なくなって二人に蹴りを入れて訓練場を後にした。
…別にダイエットなんてしてないし。しなくても別に、平気だし。

title/すてき


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