放課後、帰ろうと思って教室を出たところで、こいつに見つかった。「一緒に帰ってやってもいい」と、いつものごとく偉そうに言ってきた。相手をするのが面倒だったので、無視したら「こら待て田崎!」と勝手に後ろからついてきた。そして、いまにいたる。

「あ、なあ!」
「あ?」
「田崎、土曜日ひま?おれ、観たい映画があるんだよー」
いまなら特別におまえを連れていってやる、と余計な一言をつけて誘ってきた。時間ならあった。だけど、なんとなく面倒だ。あの美人がフリーになったからかなんなのか知らないが、今日はやたらと調子がいい。
「おれじゃなくて、三村さん誘えよ。いまがチャンスなんじゃねーの」
「え?!む、無理に決まってんだろ!」
そんないきなり…と、もごもごと言い訳をしている。やっぱりヘタレだ。
「そんなんだからいつまで経っても童貞なんだよ、おまえ」
「…!」
効果音にすると、まさに「ガーン」と聞こえてきそうなほど、青ざめた顔でおれを見る。本当に表情豊かなやつだ。
「ちくしょう…っ!ちょっと自分がイケメンだからって調子乗りやがって…!」
「おれってイケメンなのか」
「おれだってなあ!おれだって、彼女の一人や二人ぐらいっ…くそっ!」
さっきからでかい声で喚いている。もうすぐ駅に着く。こいつとはそろそろお別れだ。久しぶりに一緒にいたら、どっと疲れてしまった。
(癒しがほしいぜ…ああ、相澤……)
いまごろ、あの肉食野郎と一緒にいるんだろうな。終始相澤のことばかり考えて、今日は倉科の話しをまともに聞いていなかった。
「じゃあな童貞」
「おいっ!」
帰る寸前で茶化したら、必死の形相で睨んできた。これもまったく迫力がなかった。

「ちょっ、ちょっと田崎!」
改札を抜けようとしたらまた呼び止めてきた。まだ何かあるのか。面倒だったが、とりあえず振り返る。
「なあ、映画は?一緒に行くだろ?」
「……」
そういえば何の話しをしていたのかすっかり忘れていた。映画か。相澤とならきっと楽しいんだろうけど、こいつとは……うーん。面倒だな。
「あー…土曜日だっけ」
「そうだよ、どうせひまだろ?おまえ」
どこまでも失礼なやつだ。
「ひまじゃねーからやめとく」
「えっ」
何だかむかついたので、断ってやった。今度こそ改札を通ろうとしたら、また妨害された。腕を掴まれている。
「おい、」
「なんだよそれ!つーか、…おまえ最近まじで付き合い悪い。教室にも全然来ねえし」
用事もないのに会いにいく意味がわからない。そう思ったが、倉科がやけに必死に話してくるせいで口には出さなかった。
「……っか、彼女できたんだろ!」
「は?いねえよ、そんなん」
彼女はいない。ただ、ものすごく気になる相手ならできた。男だけど。
「じゃあ何で、おれのこと無視ばっかすんだ!」
田崎のアホ、バカ、死ねと小学生みたいな悪態をついてくる。確かに、近頃は相澤に夢中で、廊下ですれ違っても声をかけないときが多かった。こいつがまさか、そんなことを気にしているとは思ってもみなかった。

「田崎のくせに!そんなんだから、おれ以外に友達できねえんだよ!」
本当にこいつは、人の気分を逆撫でするようなことばかり言い出す。本気で面倒になってきて、放置して帰ろうと思ったが、さっきから腕を掴まれたまま離れてくれない。
「おれがいなかったらな、今ごろおまえ、」
「いるよ、友達」
「え、」
おまえ以外にいるから、と言ったら、倉科がぽかんと、あっけに取られた顔をする。
「なんで…?」
「なんでって、何だよ」
「だって、おまえいっつも一人でいたくせに」
「たまたま一人でいただけだ。べつにまったくいないわけじゃない」
人間関係が面倒で自分から声をかけなかっただけだった。それに、いまはおまえより深い仲になる予定のやつも見つかった。ほぼ確実に実現しないだろうだけど。
正直、おまえといるのはもう飽きた。そう言ってやろうかとも思ったが、口にせず心のなかに留めておいた。なんだか、倉科の様子がいつもと違ったからだ。
「……」
「倉科?」
「田崎のばか」
「あ?」
「映画、一緒に行かないなら絶交してやるから」
「おい……」
いつもより、低いトーンで言ったかと思うと、突然走りだしてあっという間にその場から姿を消した。
「何なんだいったい……」

まったく、意味がわからない。

 

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