田崎くん、恋をする。


相澤の親友である北谷が、どうやら彼女と別れたらしいという噂は瞬く間に広がっていた。あの三村に恋人ができたといって、落ち込んでいた友人は「おれにもチャンス到来かな!?」とよくわからないテンションで、報告をしてきた。おれはといえば、相澤が北谷とどうなったのか毎日気になっていた。先日、久々に北谷のほうから教室にやってきた。相澤は、いままでのように無条件で笑顔を振りまいたりはしていなかった。照れたように、やけに気をつかった表情をしながら話していた。その横顔は見たことがないものだった。
(あれは怪しかった)
おそらく、あの二人はできている。
親友という枠を飛び越えて、できてしまった雰囲気だ。美人を捨てたと思ったら、その次は親友に手を出したか、北谷。穏やかそうな顔をしておきながら、まるで肉食の獣のようなやつだ。あんなやつに目をつけられた相澤が、気の毒でならなかった。あいつはやめとけ、と忠告してやりたかったが、何せ本人からは、いままで以上に北谷のこと大好きオーラが出ていた。相澤が北谷を見る目はまさに「恋する乙女」そのものだ。
それに、ここ数日で、相澤の纏う雰囲気が変わったように思う。妙に大人っぽい顔をするようになった。悩ましい表情ってやつだ。いままでの相澤といえば、ドジでかわいいという印象しかなかったのに。それがおれにとっての癒しでもあった。けれど、大人っぽいいまの様子もおれにはやたらと魅力的にみえて、相澤はつくづく罪深いやつだと思った。

相澤は、おれに何も話さない。きっと話しづらいのだろう。まさか男と付き合ってるなんて、なかなかカミングアウトできるものじゃない。だから、おれはあえて何も気付かないふりをして、「仲直りできてよかったな」とだけ言っておいた。そのときの北谷の視線は、まるでおれを刺殺でもしかねない勢いだった。まったく恐ろしいやつだ。そういえば、相澤が風邪を引いて休んだ日。面白半分に少しけしかけてやったらこのときも、おれへの殺意がびしばしと伝わってきた。そして地を這うような声で「おまえには関係ねえだろ」とだけ言って、姿を消した。極悪非道とはまさに北谷のことだ。

結局、あいつとはライバルになるんだな、と気付いていた。
おれはゲイではなかったが、正直に言おう。相澤に惚れている。



「今日も三村さん超かわいかったぜ!」

水泳のときにさー、と隣でぎゃあぎゃあとずっとひとりでしゃべっている。まともに返事もしていなかった。こいつは根っからの面食いな上に、まだ童貞だ。かわいいかわいいと言っておきながら、相手を前にしたら何も言えなくなるヘタレなやつ。おれの数少ない友人のひとり、倉科はそんなやつだった。
「おれもあんな彼女連れて歩きてー!」
「あー」
「って、田崎!おまえさっきからおれの話し聞いてる?」
「まあ」
「ぜったい聞いてないだろ!」
何なんだおまえ!と怒鳴ってくる。まったく迫力がなかった。
倉科とは、入学当初に知り合った友人だ。去年同じクラスだった。「おまえ何かいっつも一人でいるからおれが友達になってやるよ!」と、やたら上から目線で話しかけてきたことが始まりだった。初めこそ、頭おかしいやつなのかと思って怪しんだりもした。二、三ヶ月もすれば、どうでもよくなって、なぜか一緒に行動するのが当たり前になっていた。
とにかくいつもうるさい。元気が取り柄なところは、相澤と同じだ。背格好もなんとなく似ているかもしれない。こいつのほうが、少しだけ身長が高いぐらい。だけど、性格は相澤より負けん気が強くて、可愛さには欠ける。相澤が小動物だとするなら、こいつは気性の荒い飼い犬みたいだった。とにかく、おれは相澤といるほうが癒される。そのせいで、クラスが変わってからはこいつのことを放置する日が増えていた。


 

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