いつ

 そろそろと私は便箋を封筒へ戻した。
焦げた薪の匂いがする。きっとあの人に言われたとおり、この手紙は一度燃やされたのだろう。あの人の思いもあの人の愛人への思いも、全て一度燃えて、無になって、そして私の元に届いたのだろう。残された涙の塩っぽい涙の気配だけが密かに香る。かの人は泣いたのだろう。手紙の燃える、しめやかな煙に涙を霞ませながら、泣いたのだろう。
 あの人はきっと、愛されて天へ上っていったのだろう。心の美しい人だったから。
 ああ。手紙を書こう。書かなければ。
 貴方には様々な事を言わなければなりません。私の事を知りたいと、言ってくれた貴方には。
「書き出しは、どうしましょうか」
筆を取り、便箋を前にしてみると、一刻も早く、と気が急いた。便箋を前に、少し筆を宙で惑わせ、そして。

「拝啓。
 お手紙、拝見いたしました。私の事を覚えて下さっていたのですね。少し、驚きました。
 貴方と会ってからもうそんなにも時が経っていたのですね。時が経つのは早いものです……

 風がふわりと、少しだけ伸びた私の黒髪をさらう。桃の香が淡く香って、私は鼻の奥がつんとなるのを感じた。
 この手紙を書き終わったら、貴方と出会った桃林に行こう。
 そして、桃の木の根元にこの手紙を埋めましょう。

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