夏が終わり、秋の到来に会わせて、山の様子はがらりと変容する。
 青々と耀いていた葉はやおらくすみ始め、だらりと枝に垂れ下がる。木々は有終の美を飾るように、その身から紅葉を散らし、山を鮮やかに彩る。
 しかし、鮮やかなのは木々ばかりで山は奇妙な緊張感に包まれている。山に棲む生物達はひっそちと息を潜め、しかし、四方へ警戒を張り巡らせている。足元の小さな虫どもは、慌ただしく地面を這いずり、その落葉を掻き分けるささやかな音は、否応なく焦燥感を煽る。
 皆が、様々に来るべき冬の到来を待ち構えているのだ。
山での越冬は命懸けだから。備えをしなければ、心得をしておかなければ、命を落としてしまう。
 それは秋の閉じてゆく山を進む二人の人間にも当てはまる事だった。

 がさがさと無粋な音をたてつつ、山道を進む。
 冬に向けて徐々に閉鎖されてゆくような山。
 あちらこちらから獣の、多分に警戒を孕んだ視線を受け、山道を進む少年は息苦しさに思わず溜息を漏らした。十をやっと過ぎたほどの身には似つかわしくない大きな荷物を背負い、懸命に山道を歩いてきたのだが、そろそろ体力の限界に近いことを彼は感じている。

「疲れましたか? そろそろ休みましょうか」

耳聡く、その溜息を捉えたのか、彼の前を歩いていた青年がふと足を止めた。微かに長髪が揺れ、やがて、止まる。

「大丈夫です。師匠、今日中に山を抜けなきゃって言ってたでしょ?」

少年は力ない笑みを浮かべて、否と答える。先ほどから、青年は彼の体力を憂慮して、こうやって休憩を促しているのだが頑として彼は歩みを止め、腰を下ろすことを是としない。
 それはひとえに出立前に漏らした青年の「今日中に山を抜けなければ、そろそろ危ないかもしれませんねえ」という言葉によるものであるが、山を抜ける前に少年が倒れてしまえば、それはそれで元も子もないのである。

「それは、そうですが」

青年は困った顔をして、言いよどんだ。少年が彼自身のふとした発言を遵守しようとしているのを解っているからこそ、強い態度で出ることは出来なかった。

「だったら、早く行こよ!」

たたっと彼の前に躍り出て、少年はにっこりと笑った。こうして見るとまだまだ元気そうだが、少年には確かにずっしりとした疲労が溜まっている。出立前は朱色だった頬も今や青ざめ、雰囲気も幾分覇気が無い。それでもなお、彼は駆け足で山道を進む。

(ああ、大丈夫でしょうか……)

青年は彼の後ろを心配げに進んでゆく。そして、そんな彼の憂慮を具現化するように、

「うわあっ!」

少年は隆起した根につまずいて、すっ転んだ。

「ああ、ナナキくん。やっぱり、休みましょうか」

思わず微苦笑しながら、青年は背負っていた荷物を手近な切り株に下ろした。こっくりと、少年がうつ伏せに転んだまま、首肯した。

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