君の一途さで彩られる世界

「出血箇所無し、呼吸正常、脈拍数異常無し」



シュルリと最後の貫通場所だった太股に包帯代わりの布を巻く。増血丸を飲ませたところで、私は全ての処置を終えた。全身をグルグル巻きにされたコラさんは痛々しい姿をしているけれど、それでも鉛玉は全部除去したし傷口も塞いだ。あとは様子を見るだけだ。きっともう少ししたら熱を出すだろうから、それに備えて冷やしタオル等も用意しておかなければ。


よし、



「ロー」

「!終わったのか?コラさんは!?」



部屋の隅で祈るように座っていたローを呼べば直ぐ様立ち上がって駆け寄ってくる。私が笑ってOKサインを出せば、今度は嬉し泣きだろうけどまた泣き出してしまった。本当に慕われているんだなあ、コラさんは。こんな風に想ってくれる人が居たら、きっとそれだけで幸せになれる。


「あり、ひっく、あ"りがどう…本当に…ありが…ひっく、」

「…どういたしまして。さあ、次はローの番だよ。そこの椅子に座って?」


まだしゃくりあげているローを落ち着かせる為に背中をさする。しかしそのさすった手から伝わる熱はこんな小さな子供が耐えられる域を越えるほどの高温だった。


「ロー!?あなた、この熱…!」



今まで、ずっと我慢していたのか。大切な人に生きて欲しいその一心で、私の邪魔をしないように息を殺してこの苦しさに耐えていたのか。何で気づかなかったの?医療忍者失格じゃない。


「ロー、貴方は何かの病気なの?この白い肌は何?」

「これ、は…い、言いたくない…!」

「そんな場合じゃないでしょう!?貴方はこれが何か知ってるの?知ってたら私に教えて、治せるかもしれない」

「無理だ!今まで色んな医者んとこ行ったけど、みんな、…み"ん"な、俺のこと人間とじで扱っでぐれながった…っ!」

「そんな、」


この子はこの歳で一体どんな苦しみを抱えて生きてきたんだろう。歯を食いしばって肩を震わせるローはとても小さかった。私にできることはただこの子を抱きしめることだけで、それがとても歯痒かった。


「おい、はなせ!」

「離さないよ」

「なん、で!」

「…貴方は生きてるし、大切な人を想って泣くこともできる。貴方は人間に一番大切な愛することを知ってる。ローは人間だよ」


こんな綺麗事染みたことしか言えない自分自身に腹が立つ。だけどこれは私の本音でもあるし、ローにはそんなことを言って欲しくなかった。自分は人間じゃないなんて、そんな悲しいこと思わないで。



「……こ、れ…治療法がないんだ…珀鉛病って呼ばれてる、不治の病………」

「珀鉛病?」


恐る恐る怯えた様子を見せながらも、ローは私に自分の病気のことを打ち明けてくれた。そしてそれは私に衝撃を与えるには充分すぎるものだった。体に鉛が溜まっていくなんて、そんな症例は医療上忍である私でさえ聞いたことがない。


「…そっか、話してくれてありがとう」

「!こ、怖がらねえのか…!?」

「え?だって感染症じゃないんでしょう?だったら近づいたって何の問題もないじゃない。それにしても、そんな厄介な病気があるなんて知らなかった…」

「…お前、変わってる」


話を聞いても一切態度を変えない私は、きっとローからしたら今までの医者とは全く別の人間に見えているんだろう。事実、感染症ならば隔離する必要も出てくるが話を聞く限り周りの人間が怖がることなど何もない。むしろ、今までローを診てきた医者は本当に医者なの?病気に苦しむこんな小さい子に向かって“ホワイトモンスター”だなんて、イカれてる。

そして話を聞けば聞くほど、どうしてローがこんなにもコラさんのことを慕っているのかの片鱗が見えた。彼はなんて暖かくて愛情深い人なんだろう。彼を助けることができて、本当に良かった。



「…ロー、少し私に考える時間をくれる?」

「な、にを…?」

「貴方を助ける方法に決まってる」

「い、言っただろ!?これは不治の病なんだって!これを治す為にコラさんはおれにオペオペの実を…!おれが生きる為にはおれが修行して能力を扱えるようになんなきゃムリなんだよ…っ」


オペオペ?初めて会った時から海軍やら悪魔の実やら聞いたことのない言葉があったけど、これもそうだ。だけど彼の言葉から推測するに、この病気を治す手立ては彼の能力に懸かっているらしい。それなら私は、できる限りのサポートをしよう。


本当は木の葉に戻るべきなんだろう。戦争はどうなった?ナルトは?仲間達は?私は忍連合軍医療部隊の一班長として、今すぐ現場に行かなくてはならない。だけど、


もう出逢ってしまったから

救いたいと心から思う人達に出逢ってしまったから



私は一人の医療忍者として、この人達を見捨てることはできない。申し訳ございません綱手様。だけどきっと貴方も、この人達に手をさしのべると思うから。


死んだと思ったあの瞬間願ったこと、そしてその願いを叶えさせてくれる人達に出逢ったこと。


これはきっと、運命なんだ


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