不条理な綺麗事

見つけた廃墟はちょうど崖の裏側にあって、船で海側に回らないと発見できない絶好の隠れ家だった。



「こ、こんな崖どうやって降りるんだよ!?」


崖から下をのぞきこんだ少年が非難の声をあげているが、私はそれを無視してコラさんを担いでいる反対の腕で少年を抱えた。私の背中には途中の無人の家で拝借した毛布や布が背負われている。かなりの重量で膝が折れそうになるもののそこは気合いで踏ん張った。


「おい!?なにす、おいっっ!落ち…!…て、ない…あれ…?え!?」



身体を傾ければ少年は大きな声で制止してきた。だけどこんな崖、忍にとっては何でもない。木登りや水面歩行の修行さえクリアしていれば歩いてでも安全に降りられる。ましてや私は医療忍者、チャクラコントロールには絶対の自信がある。今は体力もチャクラも少なく身体に負荷がかかっている為集中力がいるが、それでも完璧に足底にチャクラを溜めて私は崖を垂直に歩いた。



「ど、どうなってんだ!?さっきの治療といい、お前何の悪魔の実の能力者なんだよ!?」

「悪魔の実?…え、なに?それ」

「は!?ほ、本気で言ってんのか!?」

「能力者って…能力で言えば私は医療忍者に分類されるけど…」

「医療…忍者…?に、忍者ってあの忍者!?お前医者じゃないのか!?騙したのか!?」

「え、なんでそうなるの!?医療忍者なんだから医者でしょう」

「…?」

「…?」



なんだろう、この話が噛みあわない感じは。雪景色だし海はあるし、私はてっきり水の国の端か鉄の国に飛ばされたものだと思っていた。しかし少し冷静になった今少年とコラさんをよくよく見ると、私のいた里では絶対に見ないような不思議な格好をしていた。なにこのモフモフ。こんなの絶対忍べない。


そんな疑問を抱きつつも地面に降り立ち、私達は廃墟に足を踏み入れた。かなり汚れていて衛生面が心配だが、寒さを凌げるだけマシだと思おう。



「僕、ここに寝て。君もかなり重症なんだから今から治療を」

「おれは、おれは後でいいから!コラさんを診てくれ!まだ危険な状態なんだろ!?」


あまりにも必死に少年が訴えてくるので、私は治療の順番を変えることにした。というよりも、この二人は二人ともが早急に手当てしないと命が危ない。


「…分かった。今からコラさんの体内から鉛玉を抜く手術をする。あとは彼の生命力と回復力次第だけど、一命はとりとめるよ」

「ほんとか!?ほんとだな!?」

「私は患者に嘘はつかない。だから安心して僕は休んでて?」

「…そ、その僕って呼び方、やめろ!」


ああ、そういえばコラさんのことは少年が呼んでたのを聞いて勝手に呼ばせてもらってたけど、この少年自身の名前は知らないことに今更ながら気がついた。そして私もまだ名乗っていなかった。今の今まで慌ただしかったのですっかり失念していた。


「私は木の葉隠れのつむぎイト。貴方のお名前は?」

「…トラファルガー・ロー」


ローと名乗った少年の手をとって握手すれば、彼は酷く驚いたように私を見上げた。


「ローの大切な人を死なせたりなんか絶対しない。だから信じて待ってて」


目に涙を溜めて小さく頷く少年…ローを確認し、私はコラさんに向き直った。医療器具は携帯していた医療ポーチのみで布も生理的食塩水も僅かばかり。とても環境が整っているとは言い難いが、任務地で敵に取り囲まれながら治療した時に比べればなんてことない。


「助けてみせる」


私はゆっくりとコラさんの身体にチャクラメスを入れた

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