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傷つけたもの傷ついたもの




扉の奥で成される会話の意味なんて理解したくなくて、だけどそれがどういうことなのかは本能が悟った。

三人の時間に、終わりが来たということ



「ユウが、処分…!?そんな、嘘よ、だって…!いやだぁ…!!」
「ハイリ、ハイリ!落ち着いてよ、僕だってそんなの嫌だ!だってユウは、やっとできた僕たちの友達だもん…!」
「アルマ、ユウを助けよう!?ここから三人で逃げようよ…!」


子どもの私達はそこから逃げるのがどれだけ難しいか分からなくて、ただただ友達を奪われたくなくて必死だった。見張りを私が倒してアルマがユウをおぶる。食堂で聞いた水路まで夢中で走る。とにかくユウを失いたくない、それだけだった。


途中で鴉に見つかって、アルマは私とユウを水路に落とした。激しい流れでユウともはぐれてしまい、私はひとりぼっち。もし私のいない場所で二人が死んでしまったら。そう思ったら怖くて堪らなくて、勝手に身体がガクガク震えだした。


いやだ、いやだ


お願い、私から二人を奪わないで

二人は私の、大切な、







二人を助けるには力が必要だ。そう考えた私は記憶を頼りにイノセンスの安置室まで走った。直観で自分のイノセンスの下に行きシンクロを試みる。なかなか上手くいかなくて何度も跳ね返されたけど、今は実験で感じた痛みもどうでも良かった。


お願い、私に二人を助ける力をちょうだい


そう強く思った時、イノセンスが一際強く光りだして私の元に降りてきた。イノセンスは徐々に武器を形成して、それは一つの弓矢へと姿を変えた。私はイノセンスとのシンクロに成功したのだと分かった。


「ハイリ!?良かった、無事だったんだね!」
「アルマ!!」


上のコードからスルスルと何故かアルマが降りてきた。どうやらアルマもユウを助ける力を欲してこの場所に来たようだ。


「ハイリ、イノセンスとシンクロしたの!?」
「うん、これでユウを助けられるよ!」
「待っててね、僕も今…っ」


「そこまでだ!」



アルマがイノセンスに手を伸ばしかけた時、私達の身体に札が纏わりついた。その札から突然電流が流れだし身体が動かなくなる。アルマの方を見ればその身体は炎に包まれていて私は目を見開いた。


「止まったか!?」
「まったく手こずらせてくれる!」


「ユ…ウ………ユウ、を…」


「アルマ!!やめて、やめてよぉ!!」



私は力づくで札の拘束を解いて弓矢を引いた。何故か使い方は自然と分かった。鴉に攻撃するとアルマに纏う炎は幾分か弱くなったようで、その隙にアルマはイノセンスへとたどり着いた。


縛り羽を無理やり解いてシンクロした為、大規模な爆発が起こる。私は爆風に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられてしまった。その時に頭を打ったようで段々と意識が遠のく。なんでこんな時に、起きなきゃ、起きなきゃ二人が、

意思とは裏腹に沈んでいく意識。最後に見たのは、イノセンスの後ろにぐるぐると拘束された、にん、げ、ん…





*****





「もう、またこんなところで眠って…。風邪を引いても知らないわよ、  」
「大丈夫、だって   が毛布をかけてくれるもの」
「そういう問題じゃないでしょ…」


柔らかな髪を揺らしながら呆れる顔はおぼろげでハッキリとしない。それでも彼女は自分の親友の姿だと分かった。


「   !ああ、  もいたのか!」
「あら、    !」
「私はついでなの?」


嬉しそうに    に駆け寄っていく   。私は親友の幸せそうな姿を見るのが何より嬉しくて、だけど彼が彼女に微笑むのは少しだけ胸がチクリと痛んだ。



「今回の任務は俺と   だそうだ」
「恋人同士で任務って訳ね、イチャついてないでちゃんと集中しなさいよ?」
「もう、   何言ってるのよ!」


顔を赤くして怒る親友を笑いながらいなして     の顔を見ると、彼も照れくさそうにしていた。本当にこの二人はお似合いだ。私なんかが間に入れるわけない。それに彼女が幸せそうにしている姿を見るのが一番だ。



「それじゃあ、行ってくるわね」
「うん、二人とも気を付けてね」



二人を見送ったその時は、これが最後の言葉になるなんて考えもしなかった。エクソシストには常に危険がついてまわるのに、あの二人なら大丈夫だとどこか安心していたのだ。だから突然任務中に飛び込んできた訃報に私は取り乱してしまい、隙をつかれてレベル3に脇腹を抉り取られた。

沈んでいく意識に、ああ死ぬのだと感じた


    、可愛くて優しくて大好きな私の親友。もっと二人で色んなこと話したかったな。私と   と    、三人で談話室で笑い合っている時が一番幸せだった。まだ、三人で、一緒に居たかったなあ




…あのね、    、わたし、ほんとうは、


あなたのことをあいしていたの




「ばいばぁい、エクソシストぉぉぉ!!」






*****





「…ははっ、そっか、そういうことだったんだ……」



沈んでいた意識が覚醒して私はすぐに悟った。実験って、そういうことだったんだ。教団は死んだ私達を無理やりまたこの聖戦に縛り付けて。生きてる間は散々道具として扱われたあげく、死んだら今度は私達をいじくって実験体にしたって?失敗したらもう無用だと眠らされて、ユウもそうなるところだった。


はは、なによ、それ



「こんなの、モルモット以下じゃない…」




憎い、教団が憎い。あいつらが憎いよ。

私達が何をしたっていうの。私達は、今も昔もただ三人で居たかっただけなのに。大切な人達と生きたかっただけなのに。


もう顔も名前も思い出せない。記憶なんて断片的で壊れていると言ってもいい。だけど薄れる意識の中で感じたあの感覚は知ってる。私は今もその感覚を持ってる。だって、私がアルマとユウと一緒にいる感覚にそっくりなんだから。漠然と、かつて私が大好きだった二人はアルマとユウなんだって分かった。なんて皮肉なんだろう。教団が憎くて堪らないはずなのに、また三人で一緒にいられるのは教団のおかげだなんて。


だけどやっぱり、あの時安らかに眠らせて欲しかった。できれば目覚めたくなんてなかった。そうしたら私の大切な人達がこんなにも繰り返し苦しむことだってなかったんだ。




「アル、マ…ユウ…」



会いたい、二人に会いたいよ




血まみれの身体を引きずって二人を探した。いつも実験が終わったら集まっていた私達が生まれた場所。何故か足は自然とそっちに向かっていた。近づくにつれて、何かがぶつかりあう音が聞こえてくる。嫌な予感がして痛む身体に鞭をうって走り出す。



目に映ったのは、アカ

赤い血を浴びて殺し合う、アルマとユウ



「な、に、やってるの…?なにやってるのよ、二人とも…!!」




二人が殺し合うなんてこんな残酷なことはない。


何も言わなくても二人の気持ちは分かる。死んでしまいたいよね。だって私たちが生きている限り教団はきっと実験を繰り返す。私たちは生きてる限りこの憎悪に憑りつかれ続ける。それならいっそここで三人一緒に死んでしまえたらどんなにいいだろう。

だけど、生きたい。そんなもの全部捨てて、三人で、また笑いあって…



死にたいアルマ
生きたいユウ


そんなの、どっちも止められないよ




「アル、マ……ユウ……」




「一緒に死のう、ユウ」
「ごめん、俺は生きたい…っ



お前を破壊してでも……!!!」




ユウがアルマを切り捨てる光景がやけにゆっくりと流れていった





「なん、で、こんな…ことに…!ユウ、アルマ…!




あああああああああああ!!
うわああああああああああああああ!!!!」





静かな部屋に、私の泣き声だけがうるさく響く

自分の無力さに吐き気がした