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君一路

嫌なお方の親切よりも


多分、こういうのを出世ラッシュと呼ぶのだと思う。


無事に隊長へと昇進した真子を筆頭に、ここ数年で同期のほとんどが隊長格へと出世した。ラブ先輩は七番隊隊長へ、ローズ先輩は三番隊隊長へ、そして拳西は九番隊隊長へ。知り合いの中から4人も隊長へと昇進するなんて、本当に凄いことだと思う。しかもそれだけではなく、リサも白もひよ里もそれぞれ所属していた隊の副隊長へと昇進を決めた。真央霊術院では私達の世代を黄金世代だなんて呼んでいるらしい。


仲間の昇進が決まる度にいつもの面子で集まってお祝いの名目でどんちゃん騒ぎの飲み会をする。リサは京楽隊長の愚痴をこぼし、拳西と白はお互い文句を言い合って、ひよ里は曳舟隊長の補佐ができるのが何より嬉しいと喜びを露にした。


そんな中、私も三席への昇進が決まった。私だけが皆と違い隊長格へと進む事は叶わなかったが、私は鬼道衆を異動するつもりは微塵も無い為、大鬼道長と副鬼道長が引退しない限りこの席次のままだろう。けれど、私はお二人が大好きだからこのまま三席で鬼道衆を支えていけることに満足しているのも確かだ。芦矢も私と同時に四席へと昇進し、同じ思いを抱いているだろう。





「という訳でさ、私もそろそろ卍解を修得した…ってちょっと!私まだ話してる途中でしょ!?」

「ふん、勝負事の最中に油断している方が悪い。そのまま消し炭になれば良いものを」

「私が消し炭になったらアンタも消えるんですけど!?」



精神世界での口喧嘩も鬼道合戦も、もう何十年やっただろう。相変わらず私の斬魄刀である絵鏡は、持ち主の私に対して憎たらしい態度のままである。この鬼道合戦が現実の世界での私の鬼道が威力を増しつつも安定している要因ではあるのだが、相手がこんな調子だといい加減疲れてくる。


「もう具象化はできてるでしょ。というより、いきなり枕元に立たれるとアンタの顔だと恐怖しかないからやめて欲しいんだけど」

「我が姿を見せるだけありがたいことだと思え」


思えるか!と私は特大の雷吼炮をお見舞いするが、絵鏡も同規模の雷吼炮を放って打ち消してきた。絵鏡の鬼道は本当に桁違いで、私がどれだけ威力を高めて撃っても全く同じ力で撃ち返してくるので私達の勝負は決着がついたことがない。



「…仕方がない。情けない貴様の為に、一つ教えてやろう」

「一言余計なんだよなぁ」

「我を屈服されたければ、鬼道で我に打ち勝つことだ」

「…アンタを鬼道で負かせばいいの?」



ふん、と仏頂面を保ちながら、今度は千手皎天汰炮を予備動作なしで撃ってきた。これはまずいと私も全力で霊力を掻き集め千手皎天汰炮を放つ。



「この通り、我と貴様の力は同等だ。だが、これは我の力であって我の力ではない」

「は?何言って…」

「癪だが、我は貴様の魂魄から造られているのだ。つまり我のこの鬼道の力は、貴様の力を鏡写しに行使しているだけだ」

「!!絵鏡の名前って…」

「気づいたか」



絵鏡は以前言っていた。あれは私が初めて始解した時のことだ。【我は鬼を総べる王】だと。しかし今、彼は私を鏡写しにしているだけだと言った…。



「…つまり、絵鏡の本当の能力は鬼道じゃなくて、持ち主の魂魄の持つ力を刀に写して使えるようにする、ってこと…?」

「そうだ。故に、《絵鏡》」

「じゃあ、前に言ってた鬼を総べる王って…」

「貴様のことだ。貴様の世界では、大鬼特異点などと呼称されていたか」


私が、鬼道を総べる王?突然の情報に頭が混乱する。そもそも何故私が?私は死神として絶大な力を持つ四大貴族の生まれでもなければ、鬼道の創始者という訳でもない。


「突然変異と言ってもいいだろうな。たまに現れるのだ、常人とは桁外れの力を持った存在というものが。貴様は全ての鬼道を総べる可能性を秘めている。それ即ち、所謂鬼道系と呼ばれる斬魄刀も、霊力から作られてる全ての術も貴様の前では平伏し支配下に置かれるのだ」

「私に、そんな力が…?」


だが、絵鏡は自惚れるなと苦々しく口にした。



「貴様自身の力はまだただその域に達していない。研鑽を積み、我が貴様を王足り得ると判断した時のみ、貴様の鬼道は我を貫く。よく覚えておくことだ」



自分の想像以上に恐ろしい力が眠っていることを知り、自然と唾を飲み込んだ。この力は、正しく使わなければ。もう絶対に、周りの死神を巻き込むようなことになってはならない。


「…分かったよ、絵鏡。私はアンタに絶対認められるようになるから」

「ふん、期待せずに待っておくぞ」

「そこは期待しよう…?」