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君一路

論はないぞえ惚れたが負けよ


鬼道衆の五席の地位ともなると、責任の生じる任務も増えてきた。



「ギガイ…ですか?」

「左様。十二番隊の曳舟隊長とは天音くんも旧知の仲でしたな」

「はい。友人が十二番隊で席官を務めていますので、曳舟隊長の話はよく聞きますし直接何度かお話したことも…」

「此度の任務はその曳舟隊長から天音くん指名で依頼されたものなのです」

「私を指名、ですか…?」


握菱大鬼道長から任務があると呼び出された隊首室で話を聞けば、「ギガイ」という聞き慣れない単語が飛び出したうえにあの曳舟隊長から直々の指名であることも知らされた。頭の中にはてながいっぱい飛び交っていることは大鬼道長にはお見通しなのか、くつくつ笑われてしまう。おっと、気を引き締めなければ。


「私にもギガイの詳細は伝えられていないのですが、何でも曳舟隊長が試案した画期的な技術の試験運用に協力して欲しいようでしてな。用途的に鑑みた上で鬼道の熟達者を一人選出しなければいけなかったところ、顔見知りである天音くんに白羽の矢がたったという訳です」

「なるほど…?」

「本日の業務は全てこちらで引き継ぐ手筈は整えたので、天音くんにはすぐに十二番隊に向かって欲しい」

「え、書類仕事全部代行してくださるんですか!?やったラッキー…ごほん、承知いたしました!鏑木天音、直ちに十二番隊に向かいます!!」

「コラァ天音聞こえてんぞ!!お前の書類俺がやんだからな!?」



隊首室の外から芦矢の怒声が聞こえてきた。うっかり大声でラッキーなんて言っちゃったからな、しまったしまった。申し訳ないけどお願いしますと懇切丁寧に頼んだら「顔が満面の笑みなんだけど」と青筋立てられたのは気にしないでおこう。

鬼道衆の隊士皆の笑い声を背に、私は意気揚々と十二番隊に向かった。





******************************




鬼道衆と十二番隊の隊舎はそこそこ離れている為、瞬歩を使ってさっさと向かうことにした。よそ様の隊長を待たせるのは流石に良くないだろう。

目的地まであと少し、というところで、ギャースカギャースカ騒ぐ声が聞こえてきた。…これは姿を見なくても分かるぞ。あの犬猿の仲の幼馴染コンビに違いない。



「じゃかーしい!!アンタみたいなハゲが曳舟隊長に会える訳ないやろが!さっさと帰りぃ!」

「じゃかぁしいのはこっちのセリフや!曳舟隊長に呼び出しくらったって言うとるやろ!猿柿さんは人間の言葉が通じひん猿なんですかぁー??」

「なんやとボケハゲコルァ!!」

「いたたたたた」



あーあーあー。隊舎前であんな見苦しい喧嘩しちゃって…。他の人めっちゃ見てるじゃん。え、待って私今からあそこ通るの?絶対絡まれるじゃん嫌だ。



「!!おい天音!!お前なにしれっと霊圧消して素通りしようとしてんねん!助けんかい!」

「うわ見つかった。霊圧消してたのになんで気付いたの?真子は変態なの?」

「変態は関係あらへんやろ!」


ほっぺと髪の毛を引っ張られている真子に勢いよく呼び止められ、仕方なく溜息をつきながら振り返る。うわ、私の彼氏凄い不細工になってる。



「天音!?珍しいなこんなとこにおんの!」

「やっほーひよ里。実は私もそこの不細工と同じく曳舟隊長に呼ばれててね」

「なんやと!?」

「ほら見ろホントのことやったろ!?いやちゃうちゃうお前自分の彼氏のことよくも不細工て…!」

「真子はともかく私のことは通してもらってもいい?曳舟隊長のこと待たせるわけには…」

「うーん、まあ天音がそう言うんやったら…」

「無視なんか?ほんまお前図太くなったな…」



後ろでなにかごにょごにょ言っている真子はとりあえず置いといて、ひよ里と並んで歩き出した。それにしても、副隊長である真子まで呼び出されているなんて。まだ同じ任務とは限らないけど、これは私が思っているよりも大事な案件なのかもしれない。


ひよ里を先頭に十二番隊の隊首室に入れば、温かな霊圧が私達を迎えてくれた。本当にこの人はいつ会ってもホッとするなぁ。ひよ里が母親のように慕う気持ちが凄く分かる。



「真子に天音ちゃん、よく来てくれたねぇ!忙しいのに任務を受けてくれてうれしいよ!」

「えーですって、俺暇やったし」

「副隊長って暇なの…?」

「このハゲだけやろ」


ひよ里の余計な一言でまた口喧嘩が始まろうとするが、このままだと日が暮れてしまうので力ずくで止めに入った。まったく、隊長の前なんだから少しは大人しくしたらいいのに。なんて、私が言えたことじゃないけどさ。


曳舟隊長は早速だけど、と言って今回の任務の概要を説明し始めた。ふむ、【義魂】に【義骸】…。初めて聞く用語だが、なんと曳舟隊長は今まで尸魂界に無かった全く新しい技術を独自に開発したらしい。なるほど、喜助さんが将来やりたいことってこういうことなのかな。それにしても曳舟隊長は凄い。九ある技術を十に持っていくことは多少の努力で出来たとしても、零のところから一を生み出すのはその何倍もの労力が必要だろう。話を一緒に聞いていたひよ里の瞳が尊敬の色を帯びて輝いている。



「なるほどなぁ。つまり、現世の駐屯任務に就いた死神が戦闘で怪我を負った場合、この義骸っちゅーのに入ってれば安全に霊力を回復できるってことか。えらいもん作りはりましたね」

「本当に凄い…これがあれば任務の効率も良くなりますし、負傷者も少なくなりそうですね!」

「そうだろう?ただ、実用化するにはもう少し試験が必要でねぇ。アタシが現世に行ければ早いんだけど、そう簡単に隊長が留守にするわけにもいかないし。という訳で、何かあっても対処できそうな実力のある二人を選ばせてもらったって訳さ」


曳舟隊長は「何かあったら」って言っているけど、多分その心配は必要ない。彼女は少しでも危険が及びそうな代物を仲間に試させる人じゃないからだ。本当に最終確認の段階なのだろう。


「承知いたしました!その任務お受け致します!」

「本当かい!?助かるよ!…ああ、義魂丸の確認もしたいから虚に出くわしたら死神に戻って討伐してもらうけど、それ以外は自由に義骸で過ごしてもらうからね。こんな機会滅多にないんだし、たまには時間を気にせずゆっくり逢瀬を楽しんでおいで!」


「「…えっ」」