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君一路

色で固めたこの体


ぐつぐつと音をたてる鍋を二人で囲んでつつく。最近忙しくてまともに会えていなかったから、こんなに穏やかな時間は久しぶりだ。最初は初めて入る真子の部屋に緊張と少しのときめきで挙動不審だったけど、今はそれも落ち着いてきた。けれど不意に香ってくる鍋とは別の、…真子自身の匂いに私の心臓は容易く跳ねる。


「天音、はよ肉とらんと固くなるで」
「あ、ああ、うん、貰うね」
「…なんや、考え事か?」
「べっ、べべべっ別に!?」
「アッチ!!汁跳ねさせんなや!」


お肉をとった瞬間に言われたもんだから動揺してポトリと鍋の中に落としてしまう。跳ねたお汁が真子の顔にあたって面白いことになった。うん、考えるのはやめやめ、意識したら負け!


「そういや、浦原喜助とはどない話したんや?」
「うーんと、私の好きな人達について語ってきた」
「は!?恥ずかしいやっちゃな…っちゅーか、達って俺だけとちゃうんかい」
「ガッカリした?」
「ニヤニヤすな」


ペシリ、と弱い力でおでこを弾かれてしまったが、そんなことでは私の笑いはおさまらない。


「リサ達に、鬼道衆のことに、あ、特に尚のこととか、あとはマユリさんと阿近でしょ、もちろん真子のこともね」
「なぁ、俺が知らん男の名前ごっつ出てきよったけど、どういうことか説明してくれんやろなぁ天音ちゃん?」

尚って誰やねん

ぶつぶつ言う真子に笑っていれば、ギロリと睨まれる。

あ、と思った時には既に遅し。前に居た筈の真子はいつの間にか私の隣で腕を握っていた。天音ちゃんは学習能力ないなぁ?って真子は言ってるけど、私が真子に気にして欲しくてわざと言ってるなんて言ったら、彼はどんな顔をするだろう。



近づいてくる真子を目を閉じて受け入れた。ふに、とした柔らかい感触は一瞬で、すぐにぬるりとした舌が唇を割って入ってくる。あっという間に絡めとられて吸われれば、電気が流れたみたいに腰がぞくぞくした。

ん、という吐息が凄く色っぽくて、真子は今どんな顔してるんだろうと少しだけ閉じていた目を開いた。切り揃えられた前髪から除く瞳は気持ち良さそうに閉じられていて、その表情に心臓がきゅんとする。

気配を感じ取ったのか、真子もうっすらと目を開いた。ぱちり、と合う視線。余裕やな、と口付けをしたまま囁かれる。目付きがいいとはとてもじゃないけど言えないが、この時ばかりは鋭い視線が凄くかっこいい。

離された唇からはお互いを繋ぐ銀の糸がスーッと伸びる。なんだか名残惜しくて真子を見れば、彼はぐっ、と言葉を詰まらせたあと先ほどよりも余裕無さげに唇を重ねてきた。


「っは、なんやその顔、煽ってるん?」
「んっ、…真子が、好きだから」
「っ、」
「もっとって、思っちゃうの」


気がついたら私の視界は真子で埋め尽くされていて、その後ろには木目の天井。凄い勢いで押し倒されたのに全く痛くなくて、その優しさに大事にされてることを感じずには入られなかった。


どうしよう、
怖いくらいに好きって気持ちが溢れてくる



「そないなこと言うて、後悔しなや」
「するわけないじゃん」
「ええんやな?」
「うん、……真子、好きだよ」
「おん……俺もや」


真子の手が帯に触れた。胸元がはだけて長い指が伸びてくる。



"おめぇよ、成長したな"




「っ!!」



ヒュッと息をのんだ。その私の反応に気がつかない真子ではない。どないした?という声がこれ以上ないほど優しくて、返事をしたいのにどうしても声が出ない。

真子の顔を窺う。彼の視線は私の胸元で止まっていた。その視線を辿って私も下を見る。


…………ああ、ごめん、汚いよね


そこに広がっていたのは、薄くなったといえど未だ残る暴力の痕。とてもじゃないけど白くて綺麗な肌とは言えない。こんな紫や赤の散らばった女なんて、気持ち悪かったかな。


「今日は、寝よか」


真子が布団を出してくれて、二人で抱き合うように眠った。だけど私は彼に背中を向けた。この目から流れるものを、彼に見られたくなかった。