突如迫った閃光に夜一と砕蜂は間一髪のところで飛び退いた。あと一瞬遅かったら自分達も巻き込まれていただろうその攻撃に藍染は飲み込まれていた。
天音を見れば既に姿はなく、恐ろしい速度で藍染に斬りかかっていた。一太刀浴びせる度に大地が抉れるその剣撃は正しく卍解に相応しいものだった。
「バカな、鬼道衆が卍解だと!?」
狼狽える砕蜂はきっと鬼道衆のことを何も知らない。彼らは確かに鬼道の専門部隊。しかし剣術の修行を怠ることは決してないのだ。何故なら鬼道には隙が多い、接近戦の術を身に付けていなければ直ぐに死が待っているからだ。
大きな破壊音に振り向けば地面が割れているのが見えた。藍染を囲っていた隊長格達は瞬時に巻き込まれぬよう距離を取っている。鏑木天音という人物に詳しくない者は例外無く目を見開き、百年前から居る者は苦しそうに顔を歪めた。
「なるほど、確かに威力は上がっているね。素晴らしい破壊力だ。…だが、それだけだ。形状も能力も変わっていない。これが卍解だと?」
服こそ汚れているものの付いている傷はかすり傷程度、隊長格の卍解を受けてこれだけの負傷で済んでいる事実が離れて見ている副隊長達には信じられなかった。しかし、天音はまだ力の全てを解放している訳ではない。
天音が斬魄刀を地面に突き立てた
「何…!?」
ぶわり、割れた地面から突如巨大な岩石が浮かび上がり藍染に迫った。それを捌きながら藍染は思考する。彼女の斬魄刀は鬼道系ではなかったのか。まさか卍解になったからといって突然大地を操る能力に変わる訳でもあるまい。一体彼女の卍解は何だ…?
訝しげに天音を見れば彼女は斬魄刀を高々と天に掲げていた。何をしている、と考える暇もなく雷光が身体を貫いた。
衝撃から身体を逃そうと瞬歩の構えをとる。しかし、身体はピクリとも動かなかった。いつのまに自分はこれをかけられた?これは…九曜縛だ!
「返して…」
自分が知らぬ間に縛道に捕まっていることに僅かばかり動揺し、次に前を向いたときは天音が眼前に迫っていた。
「真子を…………ッッ返して!!!」
刃が高濃度の鬼道を纏って降り下ろされる瞬間、
「時間だ」
藍染達に反膜が降り注いだ
「いかん天音!離れろ!!」
夜一の警告で身を翻した天音は宙に浮かぶ藍染を憎しみの籠った眼孔で睨んだ。
「君の生きた目は久しぶりだね、なかなか良いものが見れた。去らばだ死神達よ」
仇どころか致命傷すら与えられない
それが自分と藍染の差
血が滲むほど唇を噛み締めて、強く強く拳を握った
深い裏切りと哀しみ、そして憎しみを残して、藍染惣右介は尸魂界を去った