異変ーイヘンー …………… …………… 「――てことは、その『サクラコさん』を見付けるか、その『サクラコさん』に見付かるしかないと、ここからは抜けられないのか?」 「多分……でも、今までこんなことが起きたって話を聞いたことがないの。だから、本当にただの噂なのかもしれないし――」 「そうだとしても、どちらにせよ解決策がないような気がするんだけど。打開策とかはないのか?噂で」 「聞いたこと……ない、ね」 牡丹の話を黙って聞いていた三人だったが、話が終わると、今の自分たちの状況がどうなのか、そこが気になって仕方ないようだった。その間も、足を進めることは止めない。 「でも、やっぱりそうすると、乃鞠の感じた気配ってのは、その『サクラコさん』かもしれないな」 魁の言葉に、思わず肩がビクリとする。繋いでる右手に力がこもる。 「――そうとも限らないんじゃないか?」 全員が一斉に声の方を向く。 四人の視線を一気に浴びながらも、怖じ気ずくことなく雨月は語る。 「皿屋敷は一際怖がりだろ?だから、何てこと無いものでも、とてつもなく怖いものに感じるんじゃないのか?それに、皿屋敷の状態がおかしくなった時だって、皿屋敷以外の誰も何も気付かなかったわけだし、皿屋敷の気のせいってことも考えられないのか?」 その場にいる全員が黙った。 「……ちょっと待って、だって、私、本当に感じたの!本当に、誰かに見られて――!」 「それに、その噂の話も知ってたなら、尚更、ここに対して恐怖を感じるんじゃないのか?」 「――――っ」 今度こそ、何も言えなくなってしまった。 気のせいかもしれないと思わなかったわけじゃない。それに、雨月の言うことは確かに的を射ている。 「乃鞠……」 魁の哀れむ声が聞こえた。 「……そ、そうかもね…。雨月くんの言う通りかもしれない。ごめんね、私怖がりすぎだね」 笑って言ったつもりだったが、頬が少し引き攣ってしまった。 「……とりあえず、ここは出よう。乃鞠の話がどうであれ、ここは出るべきだと俺は思うんだけど?」 「そうだね、それには賛成」 「俺も」 魁の提案に、牡丹と八雲が同意する。雨月も、声には出さないが、賛成のようだった。 「じゃあ――帰ろうか」 魁の言葉を合図に、帰ろうと、一歩足を進めたときだった。 『――ねぇ……いっしょにあそぼ…?』 背筋を冷たいものが流れ落ち、全身の毛が逆立った。 心臓は脈打ち、激しく血液を体に送っている。その音が、耳に直に聞こえてくる。 ――ドクン―! 今度は気のせいなんかじゃないことは、この場にいる誰もが感じていた。 その声がした瞬間、全員の足の動きが止まり、背後にいるモノの気配と戦っている。 振り向いてはいけない。直感でそう感じた。 早くこの場を去らなくては! 頭ではそう警鐘を鳴らしているのに、体が動かない。 早く、 早く、 早く……! 『ねぇ、あそぼうよ……』 声がすぐ後ろにまで迫ってきていた。 「ひ……っ」 喉が掠れているのか、うまく声も出せず、口からは、空気が漏れただけだった。 『ねぇ……』 「?!」 耳元で声がした。相手の息遣いまで聞こえてきそうなほどの距離まで迫ってきたとき、ようやく、脳からの信号が体に伝わった。 それは、ほぼ五人同時だった。 誰から走り出したのかも解らないほどに、一斉に、その場を離れるために、一目散で走り出した。 ――ハァッ!ハァッ! 五人の走る息が聞こえてくる。 もうどれが自分のものなのかも解らないほどに……。 ただ、背後のアノ気配から逃れるためだけに、全員が必死になって走っていた。 「――ッ乃鞠!もうちょっと早く走れねぇのか?」 「――っ!ごめっ!――でも…!」 そう、私の足は遅い。部活にも入っておらず、運動はまるでだめ、少し走るとすぐにバテてしまう。 そして、そんな私の手を引いて走っている魁は、学校の中でも1位2位を争うほどの俊足の持ち主。そんな魁からして見たら、私の鈍足は焦れったくて仕方ないのだろう。それでも、魁は私の手を離さず、引っ張ってくれている。 嬉しい。こんな状況の中、そう感じてしまった――。 [mokuji] [しおりを挟む] |