疑念ーギネンー

……………
……………
 沈黙が降りた。
 誰も何も言わない。
 誰かが、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「……乃鞠、どうして、そんなこと言うんだ?」
 魁が、抑揚の無い声で尋ねる。
「さっき、お前に何が起こったんだ?」
 魁の問いに、他の三人も耳を傾ける。
 みんな、自分の中に湧き出してきた感情を必死に押さえ込もうとしているようだった。
「さっきね……感じたの、私」
 自分の中の恐怖心と戦いながら、私は、言葉を紡ぐ。
「何を……?」
「――誰かに、見られてるような……、後ろの方から、――じぃっと……」
「今もか?」
 その問いに、首を静かに振る。
 明らかにみんなの空気が変わった。困惑、しているのだろう。
 長くない時間、その場には、重い沈黙が流れた。
「……、ひょっとして、サクラコさん?」
 沈黙を破ったのは、牡丹だった。
「?サクラ……?」
 みんなに、表情には疑問符を浮かべている。
 牡丹は一度、息を吐くと、説明し始めた。
「サクラコさん。昔、この学校の前でトラックに轢かれて亡くなった女の子のこと」
「あ……」
 その話なら聞いたことがある。とても可哀想に思っていた。
「その女の子の名前が、サクラコ、って言ったらしいよ」
 本当かどうかは知らないけど、と、牡丹は付け加えた。
「なぁ、もし、それが本当に『サクラコさん』なら、俺たちはどうなるんだ?」
「え……」
 唐突に八雲が聞いてきた。
「どうって……」
「泉くん、あの話知らないの?」
 私と牡丹が口々に言う。すると、他の二人からも疑問の声が上がった。
「俺も知らないんだけど」
「……僕も」
 魁と雨月も知らないと言う。
 横目で牡丹を見ると、牡丹は口を半開きにさせていた。呆れているらしい。いつも整った顔でいるところばかり見ている乃鞠は、そんな牡丹の表情に驚いた。
 やや間があって、牡丹が大きく息を吐きながら、手を額にあてた。
「じゃあ聞くけど、この廃校の噂、聞いたこと無い?」
 男全員が首を横に振る。
「……本当に知らないの?――信じらんない、そんな人いたんだ」
 牡丹は大袈裟といっていいほどに、それまで以上に大きなため息をついた。いつもため息をつかれている乃鞠ですら聞いたことの無いようなものだった。男の子は噂話にあまり興味を持たないとは聞いていたが、ここまでとは、正直乃鞠も驚いていた。
「――知らないのは別にいいだろっ、いいから早く教えてくれよ」
「そうだよな。それにここ、何か、気味悪くなってきたし……」
「どうせなら、歩きながらにしよう。そのほうが効率もいいだろ」
 八雲が口火を切った。それに魁や雨月も続く。
 乃鞠にしても、この場から早く離れたくてしょうがなかったため、雨月の意見に素早く賛成し、魁の腕を引っ張った。
 みんな、それに続く。
「――――私も人から聞いた話だから、正確なところは知らないんだけどね……、


 そして、歩きながら、牡丹はこの学校にまつわる噂を話し始めた



 ……この学校が廃校になる前に起こった出来事なんだって―――」





[ 4/17 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -