好奇心ーコウキシンー

「――ねぇ、やっぱり引き返そうよぉ……」
 前を歩いていた全員が、足を止めて振り返った。その表情は四人ともバラバラ。
「本当に乃鞠は怖がりだよなぁ」
 そう言って、呆れた表情で笑っている四谷魁-ヨツヤ カイ-は私の幼馴染みで、運動がとてもできる男の子だ。笑った時の白い歯がトレードマーク。女の子の中で人気があるらしいが、その話を聞くたびに、私はあまりいい気はしない。
「――魁は乃鞠を甘やかしすぎ。全く……乃鞠も、さっきから何回同じ台詞言えば気が済むの?おかげで全然進まないじゃない」
「だって……怖いものは怖いんだよ?」
「だったら、最初から来なきゃ良いじゃない」
「う……」
 怒った口調でビシビシものを言うのが灯屋牡丹-アカリヤ ボタン-。普段から言い方はきついが、本当は女の子らしくていい子。私とは小学校からの付き合いで、文句を言いながらも最後はちゃんと付き合ってくれる世話好き。私が知っている人の中で、一番の美人だと思う。肩口で切り揃えられた黒髪が凄く綺麗だが、それを言うと、いつも「うるさい」の一言が返ってくる。だがそれは、間違いなく照れ隠し。
「相変わらず手厳しいな、灯屋は」
「そう?」
「皿屋敷みたいな反応なんじゃないの?女の子はさ」
「…………。なるほど、泉は私が女じゃないと言いたいわけだ?」
「あ、いや、そういうわけではなくて……」
 そんな牡丹をからかったにもかかわらず、逆に言い返されて言い淀んでしまっているのが、泉八雲-イズミ ヤクモ-。茶髪にしてピアスを開けていたり、少し「軽い男の子」のイメージがあるが、実はとっても優しくて楽しい人。いつも牡丹をからかっているのは、八雲が牡丹のことを好きだからなのだが、いつも牡丹を怒らせてばかりいる。他の女の子にするみたいに優しくすればいいのに、と私が言うと、それじゃ面白くないらしい。
「――で?進むの?引き返すの?どっちなわけ?」
 抑揚の薄い低い声の持ち主の白峰雨月-シラミネ ウゲツ-は、クラスで一番頭のいい男の子。眼鏡の奥に隠された瞳はいつも無表情で、他の子は何を考えてるかわからないと言って、あまり近づかない。だが、本当は私たちと何ら変わりのない、ごく普通の男の子。
「そりゃあ、進退は乃鞠の意思一つで決まるんじゃないの?」
「それは言えてるな」
「皿屋敷は?」
「……う〜」
 一気に三人からの意思決定を迫られた私――皿屋敷乃鞠-サラヤシキ ノギク-は、助けを求めて魁を見る。私の視線に気付いた魁は、いつもの呆れたような苦笑いを浮かべると、私に左手を差し出す。
「――ほら、これなら少しは怖くなくなるだろ?」
「うんっ」
 魁の左手に右手を重ねた私は、その手をしっかりと握り締めた。魁の手から魁の体温が伝わってきて少し胸の鼓動が早くなる。そういえば、こうやって手を繋ぐのも久しぶりだ。私は、今の間だけ、この手を離したくないと思った。





 そして本当に、この手を絶対に離したくない――否、離してはならないと感じることになる。






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