戦慄ーセンリツー いくら歩いても、仲間の誰にも会わず、校舎の外に出ることもできなかった。そもそも校舎はこんなに広かっただろうか。いくらなんでもこれだけ歩けば、そろそろ外に出てもいいはずではないだろうか。 二人が各々にそんな疑問を思い浮かべ始めた時、1つの変化が起こった。 「「!」」 二人はその場に立ち尽くした。 そして、その先にあるものを凝視している。 二人の立っているところからおよそ十メートル先にある電球が、ぼんやりと光っていた。 今にも切れてしまいそうなその電球は、この場が廊下であることをかろうじて物語っていた。だが、その時折点滅をする電球が照らし出しているのは、それだけではなかった。 点滅する電球が明るくなる度に映し出しているのは、古くなり腐りかけている木の廊下。 そして、5、6年生くらいの少女の姿だった。 二人と少女は、しばらくの間向かい合っていたが、その均衡に耐えられなくなった乃鞠が少しずつ後ずさりをし始める。そして必然的に、繋がっている左手を引かれ、魁も後ろへ足を引く。二人とも、視線は少女に釘付けのまま。 数歩足を戻したときだった。 魁が絞り出すようにして、声を発した。 「…………あれが、サクラコ…なのか?」 二人の足が止まる。 視線は少女から離さない。 否、離すことができない。 電球が点滅する。 一度消えた電球が再び明るさを取り戻す。 「「!」」 二人は一瞬のうちに身を翻し、今来た道を走り出した。 二人とも声を全く発しない。 ただ、繋いだ手だけは離さず、一心不乱に走り出した。 頭の中はただ、逃げることのみを考えている。 それと同時に、先程見たもの――明かりが戻った一瞬に見えた、口元を大きく歪めたサクラコ――が、頭の中で何度もフラッシュバックを起こす。 二人の体を、恐怖が支配していた。 運動ができない乃鞠も、このときは、信じられないほどの速さで走っていた。それも、運動神経が良い、魁とほぼ同じくらいの速さで。 とにかく逃げなくては――! 逃げないと――! 追い付かれてはいけない――! アレに――! アレに追い付かれたら――! 乃鞠の頭の中は、サクラコへの恐怖と、本能から感じる逃げるという義務感でいっぱいになっていた。もはや、仲間を探すことも、外への道を探すことも忘れ、魁の左手だけを握り締め、走っていた。 早く、早くここから逃げなきゃ! そう思い、さらに勢いをつけて走り出そうとした時だった。 『 みーつけた 』 「!――きゃっ!」 突然、頭の真横で声がしたかと思うと、足が何かに躓き、乃鞠は頭から落ちる形で転んだ。 痛い。 転んだときに擦れた足を左手でさすり、自分が躓いたものを見る。見ると、それは廊下の素材の木で、どうやら年月が経つにつれて、木自体が歪み、釘が取れて大きく反っているらしかった。自身が転んだ原因がわかると、乃鞠は息を吐き、改めて自分の状況を思い出した。 「!」 乃鞠の目の前には、あの少女――サクラコ―が立っていた。 [mokuji] [しおりを挟む] |