安堵ーアンドー

「……やっぱり…はぐれちゃったのかな?」
「…かもな」
「じゃ、じゃあ…どうしようか?……戻る?」
「……だから、それはないって言ってるだろ?」
「あ、…うん、ごめん…」
「……」
「……」
 先程から何度も繰り返される会話。
 周りは真っ暗で、隣にいる魁の表情すらよくわからない。
 本当に隣にいるのだろうか、時々不安に襲われ、頭を振り絞って出す会話がコレ。つくづく自分の役立たずさを思い知らされる。みんながはぐれ、二人きりになってしまったからこそ、怖がってばかりもいられないことは十分解っている。だが、先程から湧き出てくる自分の中の恐怖には、どうしても打ち勝てない。さっきから、悪い想像ばかりしてしまう。
 声にこそ出しはしないが、魁自身も不安なのだろう。歩けるだけ歩き、分かれ道があれば、はぐれた仲間の名前を呼んでいる。
 それに、先程からの会話。
 中身は変わっていないが、確実に魁の声色に焦りと不安が見えてきている。他の人にはわからないような、微細な変化。だが、長年魁と接してきた乃鞠には解った。
「!」
 急にあたりの闇が一段と濃くなり、すぐ隣にいるはずの魁さえも全く見えなくなった。
 恐怖が急速に浮かび上がる。
 鼓動が早くなる。
「か、魁君!」
 恐怖を打ち消そうとして、親しんだ名前を呼ぶ。
「魁く――」
「俺はここにいるから。大丈夫」
 頭のすぐ上から声がした。間違いなく、大切な幼馴染みの四谷魁の声。
 そして、声がしたと同時に、繋いだ右手に力が籠り、温かくなる。
 魁が手を握り返してくれたのだろう。
 その手の温もりに、乃鞠の心は落ち着きを取り戻す。

 ――たとえ姿は見えなくとも、この手が繋がっている限り、魁は私のそばにいる。





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