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修理師@/政宗



「頼む、こいつを元通りにしてくれ」

横抱きにかかえていた女を修理師の前に差し出した。


小十郎から聞いた修理師という存在。
何でも直してくれるという橙色のこの男の店は竹林生い茂る場所に確かにあった。

「…事切れてる、血も流れ過ぎてるし」
「ああ?何でも直してくれるんじゃねえのか?」

修理師は目の前に置かれた女の手首に触れてみる。
刃物で深く傷付けたのであろう、左の手首はぱっくりと開いてしまっていた。
だが目を閉じた女は生きている時と殆ど変わらず穏やかで清らかだ。

「呼びかけても何も答えてはくれねえ」

政宗は手のひらを女の顔の輪郭に添わせゆっくりと優しく撫でていく。
俯いたままで、彼の表情は全くわからない。

「うーん、ちょっと難しいかな…でも」
「…でも?」
「竜の旦那の血を少し分けて貰えるかな」
「それで元通りになるなら」

橙色の修理師は女の紫色をした冷たい唇をなぞりながら付け加えこう言うた。

「三日ほどかかるからさ、血はその時にでも」
「わかった」

政宗は「またあとでな」と女に小さく声をかけ、名残惜しそうに店をあとにした。
ひとり取り残された修理師は深いため息を吐く。


「本当はもう駄目かもしれない…ごめんね竜の旦那」



事の起こりは正室を娶ったことだ。
どこから飛ばされてきたのかもわからない女。
だから知り合いなどもいないしオレの他に頼れるヤツもいない。
それでも穏やかで控えめなお前は気にする素振りすらみせなかった。
だから思いきり甘えちまっていた。
オレがいないたった数カ月、だがお前は耐えていたのだな。

羽織っていた着物がよりいっそう緋色に染まり畳をも染め上げ、真っ赤な紅葉に包まれ眠っていたお前。

「政宗様、本当は独り占めしたいの」

あなたを私だけのものにするにはどうすればいいの?

内側に激しい情熱の炎を持ち、ひとりで過ごすこの部屋の空っぽの虚しさにとうとう耐えきれずに逝ってしまった。

どこを捜してもほんとうに、もうお前はいない。


(続)


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