今度私を何処かにつれてって/小十郎
いつもいつもわたしに優しくしてくれる小十郎。
けれどそれだけ。
「相手にしてもらえない」
「なんだ?どうした」
ずうっと抱いてた恋心、小十郎とわたしは年もひとまわり離れているからか、なかなか本気にしてはくれない。
わたしは高校生で小十郎は社会人。
本当にコドモとオトナで。
小十郎のまわりにはいい匂い薫る、大人の女性ばかりいた。
「可愛いお嬢ちゃん、いい加減彼を解放してくれない?」
「…」
「おい、こどもにそんなこと言うな」
「あっそ」
小十郎の後ろからお腹に手をまわし抱きつき、顔だけをひょこりと出すわたしにその女性は艶やかで華やいだ笑顔を魅せた。
小十郎はわたしをコドモ扱いしていた。
だから友達が薄らとお化粧をしている姿にわたしは何だかオトナを感じてしまったのだ。
小十郎に釣り合うオトナになりたくて、友達に真似て濃いめのピンク色のグロスを唇に乗せてみたりもした。
そのたびに小十郎から「こどもには似合わねえ」と言われ、ティッシュで優しくグロスを拭い落とされる始末で。
「小十郎待ってて、わたし急いでオトナになるから」
「…大人に?」
「うん、だから今度何処かデートにつれてってね」
「ああ、そうだな」
いつもいつも小十郎の大きな手のひらがわたしの頭のてっぺんを撫で、うまくかわされあしらわれてしまう。
でも。
背の高い小十郎に早く追い付きたい、抱きつきたくて、めいいっぱいかかとを上げ爪先立ちをした。
それでもやっぱり小十郎には届かない。
「…届か、な…い」
爪先立ちにも限界がある。
ふるふると揺れるわたしの脇に、小十郎の手のひらがゆっくりと添えられ、軽々と持ち上げられた。
「…待っているからな」
小十郎の色を含ませた低めの声が微かにわたしの耳元にそう聞こえたような気がした。
「わたし諦めない、小十郎がデートしてくれるまで」
毎日の攻防戦、少しだけ小十郎が呆れ顔をみせた。
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