水曜日


開店前までは時間がある。
江戸の街を歩いてみようと思い、外に出た。

街の景色も所々似ていたりする。
瓦屋根、平屋、店ののぼり。
ただ、行き交う人は人間より天人が目立つ。

公園では小さな子供たちが駆け回り遊んでいた。
親は木陰で話し込んでいる。

そういえば、家出する際に愛用の煙管を持ってき忘れた。
こんなにゆっくりできるなら持ってきていればよかった。
そんなことをぼんやり思う。

「ねえ、そこのお姉さん。」

ぼーっとしていると声をかけられた。
声の主は傘をさしたチャイナ服の少年だった。

「…夜兎の子が、私に何かご用かしら?」
「お姉さん変わってるね。江戸じゃ、夜兎ってだけで尻尾巻いて逃げたりするもんだよ。」
「何分、夜兎族を見たのは初めてでね。文献にしか存在してないのかと思ったわ。」

少年は笑顔を崩さぬまま、隣に座った。

「さっきすれ違った時、ちょっと気になってね。
お姉さんから、地球では感じたことの無い雰囲気を感じたんだけど。」

遠回しに、お前は何者だ。
そう言いたいのだろう。

「そうね。地球に降りたって話、今まで聞いたことがないから、初めてでもおかしくないかもしれないわ。」
「へぇ、星の生命エネルギーを奪い合うこのご時世に引きこもってる種族なんていたんだね。」

引きこもりとは言い得て妙だ。
出たがらないにも理由があるが…。

「面白い事を言うのね。貴方、名前は?」

少年は神威と名乗った。
どこかで聞いたことがある気がする。

「神威…。うん、覚えた。私はしぐれ。
また機会があったらお話しましょう。」

大分長居していたらしく、そろそろ店に戻らなければならなかった。

「じゃあまた明日、ここで待ってるよ。」

後ろから声がしたが特に何も返さずその場を後にした。


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