イケメン四天王 | ナノ
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校庭にはすっかり落ち葉が舞い、秋のほろほろとした色に包まれていた。そんな様子をぼんやり眺めながら、私はいまこの状況が飲み込めずにいた。目の前には先ほど初めましてをした、3年の先輩がいた。岩泉さんよりも少し小柄なその人は、心なしかおろおろとしているように見える。時間を少し巻き戻せば、昼休み、何人かの3年男子が私たち2年のフロアをうろついていた。普段は殆ど、他学年の人間が立ち入ることがないので、その集団はよく目立っていた。集団と言っても片手程度の小さなものだが。

「ごめんね、急に」

全くその通りだ、とも思ったが、それを声に出すことは勿論できなかったし、しようとも思わなかった。そんな度胸は持ち合わせていない。カーディガンの裾を指先まで精いっぱい伸ばしたってひんやりと冷える。2年の教室から、1年の教室…−つまり、2階から3階へと続く階段に私は呼び出された。集団の中の1人が、昼休み、私の教室で私の名前を呼んだのだ。その違和感と、そしてなんとも絶妙な空気になった教室に私はもう、うんざりしていた。この時点で、だ。

「あの…ちょっと前からみょうじさんのことかわいいなーと思ってて」

なんというか、とてつもない疲労感に襲われた。どう対応していいのか全く分からず、だんまりとしてしまう。向こうもそんな私に困っている。それはすぐに、手に取るようにわかったが、わかったところでなんの解決にもならなかった。

「あー…ごめん、急に」

そんな言葉はさっきも聞いた。悪いと思っているくせに、よくもまぁ、こんな行動をとるもんだ。困り果てて思った。助けてもらいたいと。岩泉さんに、助けてもらいたい、と。彼はスーパーマンじゃない。かなりかっこいい男子高校生だが、こんな風に望んだって都合よくあらわれたりしない。そんなことはわかりきっている。でも。

「よかったら、連絡先教えてもらえないかなぁって」
「連絡先、ですか」
「うん、だめかな」

どうやったらこの場を切り抜けられるのだろう。ぐわんぐわんと頭の中が歪んでいく感じがした。そんな状況に耐え切れなくなった私は、自分の携帯の番号11桁を伝え、語尾に“です。”を付け、小さな小さな声で言った。もういいですかって。

「え、ちょっと待って、もう一回」
「ごめんなさい、友達を待たせているので」
「1回でわかるわけねーじゃん、ちゃんと教えてよ」

ぐ、と掴まれる肩にぞくりとした。離して、と言いかけたところでやってくる彼は、やっぱりスーパーマンなのかもしれない。少なくとも。私にとってはそれ以外の何物でもない。

「いわいずみさん、」
「…岩泉?」
「それ、俺の」
「え?」
「俺の彼女なんだわ、そいつ」
「…え、岩泉の彼女って」
「うん」

笑ってもいない。怒っている訳でも悲しんでいる訳でもない。ただただ淡々と、彼はそう言葉を続けた。いつもと纏う空気が違うことは簡単に分かったが、何を思い、何を考えているのかは全くわからなかった。彼がこのタイミングでやってきたことに動揺し、そこまで気がまわらないからかもしれないが、この時の岩泉さんは本当に、わからなかった。

「ごめん、俺、知らなくて」
「ん」

悪い、と。それだけ言い残して彼は階段をおりていく。しん、と静粛が私と大好きな彼を包む。声を出せずにいると、彼も階段をおりようとするから。待って、と思わず大きな声が出て自分で自分にびっくりした。

「なに」
「…ごめんなさい、」
「なにが」
「めいわく、かけて」
「いいよ」
「何で、わかったんですか」
「…あいつ、花巻と同じクラスのやつで、花巻が」

気のせいだと思っていた。彼の声が震えているのは。気のせいじゃないとしたら、怒っているんだろうなぁと思って謝罪の言葉を述べたのに、彼はぽろりと涙をこぼすから。こちらは息を呑むほかない。

「…いわいずみさ、ん」
「見んな」
「違う、なんで」
「見んなっつってんだろ…!」
「ごめんなさい、私、」

彼の瞳からは大粒の涙がぼろぼろとおちる。ぐしぐしと鼻をすする音に、私の心という部位がすり潰されているような気がした。勿論実際の話ではない。それでも痛かったのだ。彼の美しい涙が、痛くて痛くてたまらないのだ。

「いわいずみさん」

つつつ、と頬につたうのは自分の涙だ。大きな背中を擦ってやれば、彼がこちらを向いて、そして。

「俺以外見てんじゃねぇよ」
「…見てないよ」
「教えてんじゃねぇよ、電話番号」
「だって、」
「だってじゃねぇだろ、ふざけんなよ」

すきなんだよ、と。はぁとたっぷり息を吐き出した。いつもの自信たっぷりな彼はそこにいなくて。私の行動が、彼をこうさせてしまったのかと思うと、あぁ自分はなんてことをしてしまったのだろうと、恨めしい気分でからだじゅうが埋め尽くされていた。声を出さなくては、と思うが、相変わらずそれができない。話すのは彼ばかりだ。

「どうすればいいんだよ」

「春から、俺、どうすればいいんだよ」

「こんなの、わかってんだよ。しょうがないってわかってる。わかっててこんなに辛くて、嫉妬して、俺はどうしたらいいんだよ」

「なんでこんなにすきにさせんだよ」

かすれた声が、しっかりと私の耳に届いた。届いたが、答えることなんてできなかった。私も同じことを思っているからだ。

2016/11/13