イケメン四天王 | ナノ
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すっかり季節は秋になっていた。この間まで夏に近い秋だったが、この頃はもうほとんど冬だった。空気が少しずつ乾燥しているらしいが、俺はそんなことを感じ取る能力は発達していない。いつものごとく、4人で集まって昼飯をとっていた。話題はいつだってくだらないはずだった。

「ん、」
「どうしたのマッキー」
「いや、ん、なんか」

花巻の携帯が震え、ディスプレイを確認したかと思えば煮え切らない声を出し、及川の問いに反応することはなく、チラリと俺を見て。

「…んだよ、」
「いや、あの…」
「言えよ、きもちわりぃな」

言葉を濁らせる花巻のことを、俺を含めた3人全員が不審に思っていた。6つの瞳に耐えられなくなったのか、花巻は申し訳なさそうに言葉を発する。

「岩泉の、彼女ってなまえちゃん…?」
「は?」
「みょうじなまえって岩泉の彼女だよね?」
「今更それ?」
「いや、なんかさ」

ほら、と。気まずそうに携帯のディスプレイをこちらに見せる。数人で組まれたグループラインは、花巻と同じクラスの男子が参加していた。そこにあるのは、間違いなくなまえちゃんの名前だった。文章をイマイチ把握していない内に、及川と松川が交互にその内容を読み上げていく。淡々とした声色だ。

「俺これから2年の教室いくわ〜」
「えっ?なんで?」
「2年にかわいい女の子いるから、連絡先聞いてくる」
「まじかよ〜、2年にそんな子いたっけ?」
「何部?」
「多分部活はいってない、なまえって子」
「なまえ?」
「みょうじなまえって子…ってなにこれ」
「岩泉これ、俺、」

花巻がなぜ泣きそうな顔をしているのだ。俺も流れは把握したが、どうしたらいいのかわからず、呆然とするばかりだ。

「花巻、それ何分前」
「え、っと、10分、くらい」
「ほれ岩泉、行かなくていいの」
「あ?」
「そんな怪訝な顔してさ、んな顔するなら行ってきなよ」

松川はそう言うといつも通りのペースで飯を食い始める。一方及川は、じぃとこちらを観察し、まるでその目線は「早く行かないのか」と煽られているようだ。どうする、と自分に問う。心臓はバクバクとはやく、思考は鈍っていく。どうする、どうするんだ、と。答えは決まっているのに椅子にはり付けられたように、腰をあげることができない。

「ねぇ岩ちゃん」
「…なんだよ」
「わたっちに、これ返してきて」
「はぁ?」

渡されたのはよくわからないCDだった。なんでいま、俺が…と思うが、及川はそんな隙を与えずに言葉を続ける。

「早く返してきて」
「なんでだよ」
「いいから早く」

及川まで視線を寄越すのをやめ、松川同様食事を始める。花巻は未だ心配そうな様子で、各々の表情をオロオロと見比べていた。そうやって3人を伺っていたが、あぁ俺がいましなければならないのは、こうやって3人を比べることじゃない。1つ上のフロアに行って彼女を捕まえることだ。そう気付いた次の瞬間、あいつらには特に声も掛けず、がたりと椅子から立ち上がり階段を駆け上がった。タイミングがいいのか悪いのか、彼女の声が聞こえる。あまり機嫌のいい声でないことはすぐにわかった。どうやら既に遅かったらしく、もうことは進んでいるようだ。冷たい声で読み上げられるのはおそらく彼女の携帯番号。及川に押し付けられたCDを持ってくるのをすっかり忘れていたが、そんなことはどうだってよかった。指先がどんどん温度をなくしていく。全く動かなくなった自分の足を恨めしく思う他ない。

そんな俺をハッとさせたのは、叫ぶようななまえちゃんの声だ。悲痛で胸を刺されるようなその声に、俺はなにも考えずに音の方向へと駆ける。バチ、と合う目線。瞳からは涙が落ちそうだったが、表面張力、とやらに助けられているせいか溢れてはいない。気のせいかもしれないし、こちらの勝手な解釈かもしれないが、俺を見た瞬間、彼女は安堵したように見えた。悪い、実はちょっと前からいたんだ。もっと早く助けられた。あんな声出させることも怖いと思わせることもしなくて済んだ。嫉妬心しか持ち合わせていないような情けない自分に、今度はこちらが泣きそうだったし、実際に泣いてしまった。

「いいんですか、授業」
「ん、」

一緒にいたいと、そう申し出る彼女の願いを断る理由はなかった。いつか、そうだ、出会ったばかりのあの日と同じだ。人気のない屋上へとつづくあの階段。変わったのは季節と、彼女の髪の長さと、お互いの想いの強さと。

「ごめんなさい、私、」
「いや…俺が悪い、ごめん」

あの日みたいに、段差を利用して腰をかけているが、あの時とは違い2人同じ高さで肩を並べる。彼女がこちらに視線を向けていることには気付いていたが、目が合ったらまた泣いてしまいそうで、怖くて。
なまえちゃんは心配そうに、申し訳なさそうな声でずっと謝罪をしていた。どこまでいい子なんだろうか、と呆れるほどだ。自分と彼女を比べ、惨めになってくる。

「あの、」
「ん?」
「ありがとう、ございました」
「ん、」
「あの、」

こんな態度をとってはいけない。現に彼女はとても不安そうな声色だし、スムーズに言葉も出てきていない。俺に怯えていることは手に取るようにわかったが、なにか言葉を発すると醜い嫉妬心をぶつけてしまいそうだ。それを恐れて、相槌を打つことしかできない。

「あの、岩泉さん、おっしゃってたじゃないですか…春からどうしたら、って」

止んだり、降り出したりするなまえちゃんの涙は、おそらく俺に向けられたものなんだろう。嬉しくもあり、悲しくもある。俺のために泣いてくれているのはどこか満たされるものがあるが、泣かせてしまっているのが自分だというのは申し訳ない。忙しい感情の中、彼女はぽそぽそと話し出す。

「私も、どうしようって思うんです。岩泉さんかっこいいから、大学生になったらますますモテるだろうし、綺麗な人も沢山いるし、私なんか好きでいてもらう資格ないって、」
「…だから、そんなんじゃ」
「聞いて、」

ぎゅ、と繋がれる手のひら。お互いにひやりとしている手のひら。ただ好きなだけなのに、なんでこんなに色々な感情が生み出されるのだろうか。好きだよという、そんな単純なものじゃない。好きだから苦しいし、切ないし、恨めしい。様々な色を混ぜ合わせると、最終的には黒になるらしいが、まさにそんな感じだった。俺だけのものにしたい。俺以外の男の目に、彼女がうつらなければいいとさえ思う。独占欲が度を超えているのだろうか。恋愛というものを初めて経験する俺にはもうよくわからないのだ。

「すきだから…私、岩泉さんが幸せなら、それでいいから」
「…え?」
「私じゃない女の子と一緒にいる方が幸せなら、そうしてほしい。でもね、その…図々しいけど、私といるのが幸せな内は、そばにいたいんです。嫌になったら、そう言ってくれればいいので…その、なんて言うか」

私は岩泉さんしか好きじゃないから。

泣きながら、頬を赤らめながらそう言うなまえちゃんを、抱きしめずにはいられなかった。わかってる、彼女が俺を好きなことくらい。そんなの、わかりきっている。俺以外に興味がないこともわかっているけど、こうやって言葉にされると、むず痒くて、くすぐったくて、愛おしい。

「学校じゃしねぇって、決めてたんだけどな」
「え?」
「…保健室で、したか」
「ここでも、したことありますよ」
「…そうだな」
「忘れてるんですか?」
「忘れてねぇよ」

うっせぇよ、もう、と。
クスクスと笑う彼女の唇をふわりと塞いだ。時折声が漏れ、静かな校舎に響く。1年の教室では声がでかくて授業に集中できないことで有名な数学の教師が懲りずに声を張り上げていた。

2016/11/16