イケメン四天王 | ナノ
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夏休みは、さしていいものじゃなかった。岩泉さんとは会えないし、アルバイトはつまらない。まだ2年だというのにやたら課題は多くて終わりが見えないからやる気も出ない。
岩泉さんは部活が忙しいようで、連絡はポツポツとやり取りをするものの、顔を合わせることはなかった。学校、という同じ場所にいないことがこんなにもしんどいなんて。

「電話でもLINEでもして会いたいって言えばいいじゃん」
「図々しいよ、そんなの」
「なまえ、なんで岩泉さんのことになるとそんなうじうじしてんの」
「だってすきなんだもん」

友人と、ファミレスで。有り余った夏の暑い時間をどうにか消費しようと、こうして顔を合わせる。よく話題に上がるのは岩泉さんのことだが、こればっかりはどんなアドバイスをもらっても行動に移せなかった。

「中学生じゃないんだからさ、もうちょっとなんかあるでしょ」
「…だって」
「どうせ岩泉さんがかっこいいんだもん、って言うんでしょ」

付き合ってからしばらく経つのに、この関係に全然慣れなかった。未だに出会った時と同じくらいドキドキする。もっと一緒にいたいし、話もしたい。手とか繋いでみたいし、キスだってまたしてほしいのに、もちろんそんなこと言えない。多くを望み過ぎているとしか思えないのだ。

ぼおっとしたまま、7月が終わっていく。夏の暑さに吸い込まれるような、取り込まれていくような勢いだ。あっという間で、唖然とする。ちょうどその頃、彼がアルバイト先にやってくるから。この人はいつも急だ。

「お疲れ、今日何時?」
「…岩泉さん、」

連絡くださいよ、と一応言ってみるが、彼はあまり気にしていないようで。

「もうすぐじゃん、待ってる」
「…でも、」
「待ちたいから、待ってる」

少し強引なこの人は、いつも私をドキドキさせる。こうやって急に来て、急に話しかけて、急に私を夢中にさせるから。いや、前から夢中だけれども。

「わりぃ、急に」
「いえ、あの、」

嬉しいです、って言ってみる。そうしたら彼は驚いたように。

「素直じゃん、なんか」
「いや、あの、」
「会うの久々だな、何してたの?」

ずっと岩泉さんのことを考えていた、なんて言ったら気味が悪いだろう。でも、本当にそうなのだ。彼と知り合ってからずっと、ずっと脳内はそれで溢れていて。

「岩泉さんのこと、」
「ん?」
「岩泉さんのこと、考えてました」

その言葉を発するだけで、身体中が熱くなるから。2人で肩を並べて夏のむわりとした夜をゆっくり歩く。突然、指がきゅうと絡んで。

「なんだそれ、」
「…だって、本当なんです」

それより、と言いかける。言いかけた時に指先に力が込められるから。もうどうしようかと、それだけで頭がいっぱいで言葉なんて発することができない。

「連絡寄越さねぇのに?」
「だって、」
「迷惑だから、ってか?」

私はそんなにわかりやすいだろうか。友人にも、彼にもすぐに思っていることを指摘されて。指先はじんじんと熱い。

「なんも迷惑なんかじゃねぇから。いつでも何でも連絡してこいって」
「でも、」
「…いつまで遠慮してんだよ」
「なんか、慣れなくて、」
「俺も慣れてねぇから、そんなの」
「…こうやって、手繋いでくれるのに、ですか」

こちらを見ずに彼は私の質問に答える。いつもよりも若干音量は小さめだ。ぼそり、と呟くような音が耳に届く。

「仕方ねぇだろ、こうしたいんだから」

そうやって言葉をくれるのも嬉しくて。私も何か返さなきゃって思うけれど、少し手に力を込めるのが精一杯。彼の熱い手がどんどん私の内側を侵食する。

「岩泉さん、」

自分の声が自分で聞こえないくらいだった。この声は彼に届いているのだろうか。半信半疑のまま、一応言葉を続けてみる。

「あの、キス、」
「ん?」
「…キス、したいです」

人影なんて感じられない狭い路地。繋いでいた手をグッと引かれて。よろけたと思えば彼の胸の中。背中にまわる手は、しっかりと私を包み込む。

「…言えんだな、そんなこと」
「違う、」
「何が違うんだよ」
「違う、ううん、違くないけど、」

岩泉さんの体温は熱いし、夜だというのにまだ気温も高い。私だって彼の背中に触れたくて、ひっそりと手をまわしてその感触を確かめる。自分とは全然違う身体。ごつりとして、あぁ男の人だって。

「したいの?」

きゅ、とつった目が私を捉える。こくんと頷いた後、すぐに柔く触れる唇。離れた後、言ってみる。もっと、って。

「…あぁ、もう、なんだよ」

そう言いながらもまたキスを落としてくれるから。言葉とは裏腹の優しいそれに、とろりと全身が反応する。夏休みって、悪くないかも。

2016/03/02