「松川、代わり頼むわ」
「はぁ?」
「抜けるわ、わりぃ」
表彰式かなんかがあるから、及川とステージに上がらなくてはならないことはわかっていたが、そんなことは半ばどうでもよかった。というか、彼女がいないならそんな行為に全く意味はない。なまえちゃんが楽しみにしてますって言って笑うから、こちらだって楽しみにしていたのに。
当の本人がこちらを見ているって気付いていた。でも、きゃあきゃあ騒ぐ名前も学年も知らない女子に囲まれて。うざったいなって思うが、追い払うことなんてできなかった。それでも視線だけは彼女に向けておく。そうしたら体育館から出て行くから。
「ちょ、わりぃ。バレー部呼ばれてっから行くわ」
無理やりそう言って彼女達をどけて。いつもなまえちゃんと行動を共にしている彼女のクラスメイトの元へ走る。ちょっといいか、って声を掛けた。
「へっ、い、いわいず、は、はい、」
「わりぃ、あいつどこいった」
「あいつ、ですか」
「なまえちゃん、どこ行ったの」
「え、あ、保健室…」
「わかった。ありがとな」
なんなんだよ、と苛立ちながら松川に代理を頼んで体育館から出て行く。やたら体育の準備運動がキツい教師が未だにマイクをバリバリといわせながら何か怒鳴っていたが興味すらなかった。あいつがいないならどうだっていいんだ。
保健室まで長い廊下を全力で走る。本当、なんなんだよ。こんな風にしたいわけじゃない。もっと安心させてやりたいし、お前しか興味ねぇよって言ってやりたいけど、俺もこんな男だから。
ガラリと扉を開ければカーテンが閉められたベッドが一つ。シャアとそこを開ければ、寝そべる彼女。驚いた表情と白くむちりとした太もも、捲れたスカートからは柔らかい色の下着まで覗かせている。普通、そんな短いスカート履いてたら下になんか履くだろ…と呆れた。
何を言ったのか。あまり覚えていない。ただ、思っていることを正直に言ったのは覚えている。そして赤い唇にキスをした。やり方なんてわからない。呼吸を止めて、触れるか触れないかよくわからないようなキス。自分から提案して自分からしたのに、恥ずかしくて仕方がない。
「岩泉さん、」
「…こっち見んな」
柔らかくて、熱くて。唇重ねて何がおもしれぇんだって思っていた。今ならわかる。もっとしたいし、もっと触れていたい。
「…岩泉さん、」
「煽んなや、」
か細く、甘ったるい声で俺を呼んで、ワイシャツの腹の辺りをきゅうと握る彼女。とろんとしたその瞳にこちらも目が離せなくなる。もっと、って言われているように感じるのは、俺の勝手な判断だろうか。
「…もうちょい長く、してもいいか」
目を合わせてそう問えば、顔を真っ赤にして頷く彼女。華奢な肩をできるだけ優しい力で掴んで、4秒くらい唇を合わせた。ふわふわとしたそれに、俺はもうすっかり酔っていた。
2016/02/27