イケメン四天王 | ナノ
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早く整列しろって、マイクをビリビリいわせながら体育教師が苛立っていた。理由は明確だ。バレー部イケメン四天王に、女子が群がっているからだ。

「すっごいね、」

友人はぼそっとそう呟くが、私は正直その光景を視界に入れることはできなかった。柔らかく、高い音程のその声は、自分にはないものだから。いつ聞いても悔しくて堪らない。

明日から夏休み。終業式と、運動部の表彰式を兼ねた集会。全校生徒が集まる体育館は人間の発する熱でむわむわとしていた。ワイシャツが肌にペタリと張り付くような感覚。

「男子バレー部!代表脇に集まれ!」

キィーン、とハウリング。ただでさえでも頭が痛いのだから、勘弁していただけないだろうか。なんだかもうどうでもよくなってしまう。ステージに立つ岩泉さんが見れるって、ちょっと楽しみだったのに。

あれからの私たちは特に何も変わらず、毎日細々と連絡を取り合い、稀に校内で待ち合わせをして幾つか言葉を交わす、非常に清い恋愛を楽しんでいた。周りにも殆ど公言していないし、目立つような行動(肩を並べて下校するとか)はしていない。だから、相変わらず彼の周りには女の子が集まっていた。体育教師が呼び出したところで、及川さんはもちろん、岩泉さんも囲まれたまま。私の彼氏なんだから触らないでよ、声を掛けないでよって怒鳴りたくなる。

「私、ちょっと休んでくる」
「えっ?大丈夫?」
「なんか疲れる…保健室いるね」
「ついて行こうか?」
「んーん、平気。ありがとね」

騒がしいそこを通り過ぎて、廊下に出ればその声は遠くなる。遠くなるのに、頭はずきりと痛むし、吐き気もする。
なんか、私、異常なのかな。岩泉さんが他の子と話してるの、結構本当に嫌みたいだ。

保健の先生も集会に出席するようで、席を外してしまう。普段、ここを利用する習性のない私は、比較的あっさりと使わせてもらうことができた。体育館から離れたここは、ものすごく静かで、怖くなるくらい。
ギシ、と音を立てるベッドにぽすんと横になって、目を閉じれば先程の光景が蘇るから。わかってる。あの優しい岩泉さんが女の子達を追い払えるはずはないし、あんなの抵抗不可で事故のようなもの。私が慣れるしかないってわかるけど。

もやもやと考えていると、ガラリと音がして。静粛でいっぱいのこの部屋にはぁはぁと荒い呼吸も響く。シャア、と突然カーテンを開けたのは彼だった。

「…何してんだよ」
「…集会、は?」
「お前ほんっと…いい加減にしろや」

彼の言葉の後、反射的に身体を起こす。なんでいるの、って呟けば彼は苛立った表情をしで。

「逃げんなよ」
「…逃げてなんか、体調悪くて」
「こっち見てたろ。声かけてこいや」
「だって、」

できるわけないじゃん、って彼に向けて言った。こっちだってできることならそうしたいよ。でも岩泉さんは迷惑でしょう?私が彼女だってわかったら。

「…つーか、誘ってんの、」
「え?」
「すげぇ眺めだけど、」

ひらり、と捲れたスカート。淡い色の下着がちらりと覗く。彼からの指摘で今更それに気付いて急いでスカートを整える。寝そべった際に捲れ上がったのだろう。夏の暑い日に太ももにまとわりつくスパッツが嫌いで、この時期になると履かないことが多いから。

「ご、ごめんなさい、」
「なまえちゃんさ、」

彼もベッドに腰を落として、ギィと軋む音が耳に届く。こちらをチラリと見た彼は、言葉を濁して言う。

「あの、なんつーか、俺、こんなんだからわかんねぇかも知れないけど」

すげぇ好きだから、って言われる。思いもよらない言葉に、返事をすることすらできない。

「ごめんな、いつも」

嫌な想いばっかりさせてんな、って。そんなの私が勝手に塞ぎ込んでいるだけなのに。

「…夏休み、たまに会えるか?」
「え…」
「部活あるけど…普段よりは時間あるし、会えればなって思ってて」

とても、不思議だった。学校は恐ろしく広くてうじゃうじゃと人間がいるはずなのに、この空間には私と彼だけで。つぅ、と彼の額から汗が落ちる。

「嫌?」
「…いやじゃ、ないです。嬉しい、です」
「ん。よかった」

短い返事の後、彼がこちらをじいと見つめる。その目線にじりじりと焼き尽くされるような感覚。そんなに見ないで、って言いたくなる。

「あのさ」
「…はい、」
「キスしてもいいか」
「…え?」
「わりぃ、するわ」

すう、と近付いてくる彼の瞳。一瞬触れるだけのキスを一度した後、彼は顔を真っ赤にして項垂れていた。

2016/02/27