エリートチャラリーマン | ナノ
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及川のデートプランは、完璧だった。
下へ降りると、及川は車に軽く寄りかかって私を待っていた。深いグリーンのケーブルニット。細身のパンツはブラックで、少しロールアップされていた。シンプルな金具が付いた革靴はビターチョコレートのようなカラー。上からバサリとトレンチコートを羽織っていた。私なんかよりよっぽど秋らしいおしゃれなコーディネート。長身でガシリとした体型だから、何を着ても似合うんだろうけど、思わず見惚れた。アクセサリーはつけていなかったが、初めて会った時に付けていたものとは別の腕時計が左手に巻き付いていた。

「おはよう」
「…おはようございます」
「はい、どうぞ」
「…ありがとうございます」
「なに、どうしたの。そんなジトッとした目で見ないでよ」
「ズルいですよ、及川さん」
「何で?」

及川は運転席に乗り込み、エンジンを掛ける。出すよ、と独り言のように呟いたのでそれについては返事はせず、シートベルトだけ締める。

「顔も良くて仕事も出来て女の子にモテてセンスまでいいなんて」
「あらっ、なまえちゃんが初めて俺のこと褒めてる〜」
「その分性格が悪いんですかね」

ちょっと〜、と拗ねる及川。こいつ、おそらくアラサーだろうによくそんなリアクション取れるな、と感心したところだ。

「なまえちゃんもいつもと雰囲気違ってかわいいね、メイク?」
「…よく気付きますね」
「だってなまえちゃんのこと好きだから。よ〜く見てるよ〜?」

そんな適当な話の流れから、朝ご飯は?と問われ、軽く済ませましたと答える。じゃあ映画でも見ようかと近くの映画館へ。

「及川さん、これ気になってたんですか?」
「ん?うん」

割り勘にしましょう、という提案は却下。反抗とばかりに及川がチケットを購入している間に飲み物だけ勝手に買ってしまう。アイスコーヒーでいいのだろうか、いいか。

「なまえちゃん、律儀だよねぇ」
「何がですか」
「あの時のお釣りも、今も」
「…だって、」
「偉いねぇ、ほんと」

及川が私の頭を子どもをあやすかのように撫でる。ポン、と触れ瞬間、心臓がどくりと跳ねる。不意打ち。

「子ども扱いしないでもらえますか」
「あら、だって歳下でしょう、なまえちゃん」
「まぁそうですけど」
「そういえばなまえちゃん幾つ?」
「20歳です」

ん?と素っ頓狂な声と顔をした彼はもう一度私に問う。しつこいな、ほんと。

「は、た、ちです」
「嘘でしょ?大丈夫だよ、俺26だから」
「嘘じゃないですよ。何で嘘つくんですか」
「…嘘でしょ」
「…しつこいですよ」

その後、及川は私をまじまじと見て、嘘でしょ、と3回ほど尋ねてきた。
しつこい男は嫌われますよ、とクギを刺すと黙り込み、悶々としているようだった。幾つだと思っていたのかは知らないが、失礼な男だ。

「始まりますよ、及川さん」
「なまえちゃん、何歳まで恋愛対象?俺26だけど大丈夫?」
「及川さんの場合、年齢とかよりも性格に難あり、って感じですね。年齢は気にしないので」
「本当?!よかった〜」

人の話聞いてんのか?と言葉に出しそうになるが、どうにか留めた。
この男の自信はどこからやってくるのだろうか。まぁこのルックスだもんな、自惚れるわ、そりゃ。

2015/10/24