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アラームは時間通りに私の気分を不快にした。

昨日は終電まで仕事をしていて、家に着いたのは日付が変わりそうな頃。眠ったのは深夜2時前。明日はオフ…のはずだった。なのに私は朝の8時にアラームを鳴らす。

私を送り届けたあの日から、及川はほぼ毎日、電話かLINEで連絡を寄越した。私の要望通り、コンスタントではなかったが、回数は常識とはかけ離れていた。大抵くだらない内容で、仕事が早く終わりすぎて暇だとか、岩泉さんと飲みに行くだとか、美味しいパン屋さんを見つけたとか、そんな些細でどうでもいいことばかりだった。そして同時にデートに誘われていた。

あまりにもしつこく、鬱陶しい。はじめは単純にそう思っていたのだが、よくよく考えればオフの日は昼頃まで眠り、午後は溜まった家事を済ませ、夕方にもう一度眠ってしまう。それで終わっていくくだらないものだったので、たまには外出して過ごすのも悪くないかと思い、承諾した。ちょうど土曜休みを貰えた日があったので、及川に知らせるとその日の10:30に迎えに行くから!!!と元気でやかましい返事をくれた。

大概、2時間半前に起床している私も私だ。朝の冷え切った空気に身震いしながらお湯を沸かす。同時進行で、昨日お店で余ったバゲットを卵と牛乳、砂糖を混ぜ合わせた液体に漬け込み、ぼおっと考えた。

なんであんな軟派でどうしようもないやかましい人間とデートの約束をしたのだろうか。ふつふつと沸騰し始める小さなケトル。よくわからない頂き物のハーブティーは矢鱈香りはいいが味は微妙だった。マグカップに湯を注ぐ。
それをちびちびと飲みながらフライパンで水分を吸い込んででろんとしたバゲットを適当に焼いて胃の中へ。考えたって答えはでない。さて、準備をしよう。大きく伸びをした。
「今から20分くらいで着くけど、大丈夫?」

及川が電話を寄越したのは10時を少し過ぎた頃だ。なまえちゃんおはよう、と意外にも落ち着いたトーンになんだか調子が狂う。昨日は金曜日だったし、飲んで二日酔いでもしているのだろうか。

「大丈夫です。すみません、家まで来ていただいて」
「いーえ。それじゃ、着いたら連絡するね」

がちゃり、と電話が切れた。珍しいことだった。及川は、自分から電話を切ることはしなかった。必ず自分から掛けてきて、私が切るのを待つ。律儀な男だなぁと変に感心していた。
まぁ、家から出る時に掛けてきたのだろうし、急いでいたのだろうとぼんやり自分の中で解決した。

珍しくブラックを封印。及川の好みなんてサッパリわからない私は、クローゼットの前で地団駄を踏んだ。なんでこんなに男ウケしないような洋服ばかりなんだろうか。日頃カジュアルでスタイリッシュな洋服ばかりを好む自分を恨んだ。
セットアップでも来ていればおしゃれに見えるだろうかと思い、グレイのニット素材のものに腕を通す。ハイネックが私の中でトレンドなのだ。スカートはタイトな膝丈のもので、若干モードっぽく仕上がってしまうが仕方がない。メイクでどうにかしよう。
スキンケアから丁寧に。ベースメイクで失敗したら1日凹んだまま終わってしまう。しっかり水分を入れて保湿。ツヤ感を上手く出すベースに薄付きなのにしっかりカバーするファンデーションは何度もリピートしているお気に入りのものだ。
肌に溶け込むような淡いブラウンをまぶたに。アイラインもブラックではなくブラウンを使う。普段は長めに跳ね上げるが、今日はラッシュラインで止めておく。まつ毛はきちんとカールさせてマスカラはササッと。
チークとリップは色を合わせて肌によく馴染むコーラルピンクを。なんの変哲もないつまらないメイクだが仕方がない。グロスは唇の中心にだけのせて立体感を出す。

髪は毛先をゆるりと巻いて、ゴールドの華奢なアクセサリーを耳と腕に。就職祝いに購入したブラックとアイボリー、バイカラーのショルダーバッグ。まぁ、こんなもんだろう。背伸びしない、年相応の私。
鏡で最終チェックをしているところで、及川から連絡が入った。着いたよ、という短い文章。今から出ます、と数秒で返信し、中途半端な丈のブラックの靴下、同じ色のショートブーツに足を滑らせる。小物はブラックしか持ち合わせていない。許せ及川。

ドキン、と心臓が高鳴る自分に嫌気がさした。早起きして、準備して。いったい私は何がしたいのだろうか。何度目の自問自答だろうか。ほんと、呆れる。

2015/10/22