アカアシモリフクロウ | ナノ
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戦場は本日も乱戦だ。嫌味に怒鳴り声、他部署の悪口に溜息。見事なカルテット。本格的に耳栓の導入を考えたほうが良さそうだ。

赤葦京治は、仕事のできる男だった。毎年新人の指導をする上司(こいつは割とまとも)が褒めていた。今時珍しく素直で賢いと。そんな評価があったせいか、他の人間も彼には一目置いていた。私もその一人だったが、他とは少し違っていたと思う。底知れぬ疑問を持ちながら、だった。

「僕やりますよ」
「…赤葦くん」

コーヒー淹れてこい。こちらが忙しいところを見計らって言っているのだろうか。不具合があって苦戦しているところにその言葉を寄越してくるからタチが悪い。少し離れた場所にある給湯室。十数人分のコーヒーを用意しているときに彼は現れた。

「すみません、気付かなくて」
「いいよ、私が頼まれたから」
「ずっと座ってて疲れたので、手伝わせてください」

あぁ、これだよなぁと感心した。言い方をちょっと変えて、こちらがイエスと言いやすいようにする。

「みょうじさん、大変ですね」
「え?」
「若いのに仕事できるから、嫉妬されて」
「…そうでもないよ」
「そうだと思いますよ」
「赤葦くんだって。いい評判しか聞かないよ?」
「そうなんですか?怖いですね、どこかでこそこそ言われてるの」

全く心がこもっていなくて、少し笑いそうになった。他人のことなんて気にしないタイプだろう、君は。

「赤葦くんって、どれが本当なの?」
「…なにがですか?」
「優しかったり冷たかったりするから」
「面白いこと聞きますね」

赤葦くんはちょっと考えて静かな声で言った。

「みょうじさんはどうなんですか?」
「え?」
「職場でのみょうじさんと、お酒飲んだ時のみょうじさん。どっちが本当なんですか?」
「なにそれ」
「そのままの意味です。あと僕は結構親切ですよ」

たっぷりとコーヒーを注ぎ終えたマグ。トレンチに乗せてひょいと持って行ってしまう。彼の背中を意識して見たのは初めてだった。広い肩幅。しゃんと伸びた背筋。あの冷たい目に、何を秘めているんだろうって。
もう直ぐ月が変わるのに、彼のことは何もわからなかった。

2016/01/28