アカアシモリフクロウ | ナノ
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拍子抜けだ。あの後、一旦喧しい奴らがいる部屋に戻ってみた。全員ベロベロで、私たちが戻ってきたことも、そもそもいなくなったことも気付いていないようだ。

「このまま帰ろうか」
「そうですね」

意見一致。そそくさ、と薄い上着と鞄を持ってその場所にサヨナラした。

「送ります」
「いいよ、タクシー拾うもん」
「心配なので、」
「…ねぇ、赤葦くんお腹空かない?」
「え?」
「飲み直そうよ」

わかりました、と快い承諾。頭の中で、描いていた。この後の流れを。これから行くお店でまた少しアルコールを身体に入れて酔っ払ってしまおう。優しい彼に面倒を見てもらったついでに、部屋に招き入れるのだ。そのままネクタイを引っ張ってキスしてやろうって。

ところがどうだ。記憶は上手いこと抜けているが、自室のベッドには自分一人。あの綺麗な顔立ちの綺麗な名前の男はどこにもいなかった。

携帯のディスプレイで確認すると10時13分。頭が電化製品のリモコンで殴られているかのように痛む。化粧はそのまんまだし、洋服も脱着した形跡はない。
はぁ、と溜息。ずるりと重たい身体をどうにか動かしてベッドから這い出る。面倒だがシャワーを浴びよう。

熱いお湯を浴びながら、少しずつ記憶を遡ってみる。ワインの品揃えが多い店に行って、飲み会の間ほとんど食事を取れなかった分を賄った。彼も見た目よりも量を食べることに驚いたのは覚えている。酒類は比較的なんでも飲めるとか…そんなことも言っていただろうか。今は一人暮らしとも言っていたっけ。私の自宅とそう遠くなかったのも覚えている。地名までは思い出せない。そもそも、店からどうやって出てどうやってここに辿り着いたのかがわからないのだ。

濡れた髪の水分を飛ばし、歯も磨いてしまう。少し気だるさはなくなったが、まだ頭は痛いし身体が重い。冷蔵庫にストックさせているはずのミネラルウォーターがなくて、仕方なく薬臭い水道水を二口だけ喉に流した。
時刻は11時近く。インターホンが鳴って、あぁそういえば生活必需品をインターネットで頼んでいたっけって、いつもよりも油断してドアを開けた。着古したTシャツに緑黄色野菜のように鮮やかな緑でカラーリングされた高校時代のハーフパンツ。もちろんすっぴん。

「っ…!」
「ちょ、閉めないでください…!」

赤葦京治だった。ほんの一瞬しか見えなかったが、心底面倒臭そうな顔をしていた。

「ちょっと待って、」
「こんなところにいると変質者みたいじゃないですか…!」
「なんで急に来るの」
「…貴方が俺の携帯奪ったからですよ」

頭の中はクエスチョンマーク。はて、何を言っているんだ彼は。そーっと扉を開けて、彼の様子を伺う。苛立っているのが簡単に分かった。

「…リビングでちょっと待ってて」
「お邪魔します」

若干散らかってはいたが、人を招けない程ではない。一旦彼を部屋に上げる。私は知り合いに見られても良い格好に着替え、5分程度でメイクを施す。ファンデーションと眉、チークはペペペッと適当にのせた。

「ごめんね」
「本当ですよ」

インスタントのコーヒーを彼に出してやる。昨日よりもダークさが増した赤葦くんは面倒くさそうではあったが体調は特にかわりがないようだ。私より飲んでいたのに。

「俺の携帯、どこですか」
「…」
「覚えてないんですよね、知ってます」
「すみません」
「探してください。俺も探しますんで」
「鳴らそうか?電源入ってないの?」
「もう充電無くなってましたから。ここにきた時点で」

彼は多くを語らず、私が聞いたことにだけ返事をした。薄手の春ニットはネイビーで、細身のパンツはブラック。シンプルでオーソドックスな洋服がスタイルの良い彼によく似合っていた。

「ありました」
「えっ、どこに」
「ベッドと壁の間です」

淡々とそう告げた彼は、それじゃあと出て行こうとする。

「…赤葦くんそれだけのために来たの」
「来ましたよ」
「お昼は?まだでしょ」
「俺予定あるんで」

そう言って玄関に向かう。なにこいつ。昨日のあのいい雰囲気をどこに捨ててきたんだ。

「コーヒーご馳走さまでした。テーブルの上に差し入れ置いておいたのでよかったらどうぞ」
「っ、待って」
「なんですか」
「ごめんね、昨日」
「…とんでもないです」

ニコリともせずに彼は部屋から出て行った。入れ替わるように宅配業者がやってきたが、どう対応したのかイマイチ覚えていない。大量のトイレットペーパーやミネラルウォーター。玄関先に放置する。
コンビニの袋の中にはお水にスポーツドリンク、インスタントのしじみのお味噌汁にアロエヨーグルト。後々調べてみたらどれも二日酔いに良いって言われているものばかりだった。優しいのか、冷たいのか。
相変わらず、赤葦京治のことはよくわからなかった。

2016/01/28