アカアシモリフクロウ | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
終業時間前、6階会議室前で待ち伏せる。新入社員は1週間、役職のついた人間から基本的な仕事の流れを教わったり、簡単なテキストや有名(なのかどうかは知らないが)なマナー講師を招き、講座を受け社会人としてのルールを再認識させたりもする。おまけにうちの会社の創設秘話(無駄に熱い)を聞いてぐったりもする。ほぼ、一日中座学だ。
その分きちんと18時に解放される。9時から18時。定時退社最高。こちらは残業だというのに。

そんなことを考えていると、わらわらと若い社員がエレベーターに向かって部屋から出てくる。お疲れ様です、なんて声も掛けられた。よく教育されていること、と感心。お疲れ様です、と笑顔で返す。

「あ、」

いた、あかあしけいじ。
新年度。月初ということもあり我が部署は非常にバタついていた。毎月この時期はどの社員も2〜3時間の残業が当たり前で、当然私もその一員だった。デスクの上は何が何だかよくわからない書類で一杯になる。あまりの汚さに仕事を進めるのにも支障が出始め、今朝思い立っていらない書類をシュレッダーにかけた。どうやらそこに紛れたようだ。あの時、上司から受け取ったメモがない。彼のフルネームが書いてある、あのメモが。

「あかあしくん」
「はい、」

近くで見ても、背の高い男だ。黒い髪は長くも短くもなく、瞳に温度はない。肌はつるりと清潔感があり、顔立ちは少し眠たげ。若いのに不思議と色っぽさがあった。私が彼を呼ぶと、すぐに返事が返ってくる。その後に会釈。

「お疲れ様です」
「…お疲れ様」
「どうかしたんですか?」
「えっ、」
「僕がお世話になる部署の方…ですよね」
「…あ、うん、みょうじと申します」

にこり、と笑う。あぁ、なんだ。笑うんだって面食らった。いや、当たり前なのだが、そんな印象がなかったので怯んでしまう。

「なんで、」
「女性、お一人だけだったので…」

確かに人数の多い部署でもないし、彼の言う通り女は私だけ。嫌でも目立つんだなぁと感心した。そして本題を思い出す。

「あの、私あかあしくんの名刺を作るように言われてたんだけど、名前書いた紙、シュレッダーにかけたみたいで…。綺麗な名前だっていうのは覚えてるんだけど、はっきり覚えてないから、申し訳ないんだけど教えてもらえる?」

上司に聞くとまたネチネチ嫌味を言われる。そう思ってわざわざここまで出向いた。彼は私の話を聞くと、わかりました、と快諾。

「申し訳ないです、お忙しいのに」
「え?」

ペンをスラスラと動かしながら彼は言った。4字を書き終えると、こちらを見て言う。

「月初、特に忙しい部署だと聞いたので」
「えっ、あぁ、うん。そうだね」
「お忙しいのに、僕のことでお手を煩わせてしまって…申し訳ないです」
「あ、違うの。すぐ終わるのに私が後回しにしたから」
「赤葦京治と申します。ご迷惑おかけしますが、改めてよろしくお願い致します」

細く、美しい文字で彼は自分の名前を書き、私に差し出す。
なんなんだ、この子。本当に歳下なのだろうか。唖然としつつ、それを受け取った。ありがとう、と発した自身の声がかわい子ぶった声で、そんな自分に苛立った。
職場内恋愛は、ありえない。そう言い聞かせて彼と別れ戦場へ。さっさと終わらせてさっさと部屋に帰ろう。

2016/01/28