「ちょ、ごめんね、ごめん」
ようやく宴会も終わり、温泉に浸かって1人の部屋へ。赤葦くんはあの上司と戦場に戻ってきたが、言葉を発することはなかった。なにかとてつもないオーラを纏っていたのでこちらからも話しかけられなかった。
「何考えてんの」
「ごめんね、」
「ごめんじゃなくて、何考えてんのって聞いてるんだけど」
本日2回目、壁に追いやられる。端正な顔立ちの男がどうやって相部屋を抜けてきたのかも気になるが、そんなことを聞ける空気ではないと容易に分かった。
「あのまま、キスされていたらどうするつもりだったんですか」
「されないもん」
「されたら、という仮定の話をしているんです」
「…それは嫌です」
「みょうじさんは、危機感がなさすぎます。もっと、」
もっと自覚してください、と言われた。意味がわからずポカンとする。
「みょうじさんは俺をかっこいいだの整ってるだの言いますが、貴方だって綺麗だし色っぽいです。これだけ男が集まっていればそういう目で見る人間だっています」
滑るように途切れることなくつらつらと話す彼に圧倒される。思わず声を出す方法を忘れてしまうほどだ。
「…いないよ」
「いたじゃないですか、現に」
「酔ってたからだって。誰でもいいんでしょ」
「違います」
「何で断言できるの」
「それは、」
彼は悔しそうに、こちらを睨む。それから声を絞り出して言った。
「よく、話してるから」
「誰が何を」
「皆さんが、みょうじさんのことを」
「なんて」
「それは、」
「言えないってこと?」
「…彼氏いなかったら狙うのに、って」
まだまだ私も捨てたもんじゃないようだ。一応、女として見られているようで安心する。ちょっと嬉しくなるから女というものは単純だ。
「…なに笑ってるんですか」
「赤葦くんって本当かわいいね」
「だから、そんな話はしていないんですよ」
「かわいい。ねぇ、キスしてよ」
彼は驚いた顔をした後、ニコリと笑って。ふわりと口付けをするとなんだかおかしくって2人で笑った。
「赤葦くんも嫉妬とかするんだね」
「自分でもびっくりしています。嫉妬なんて初めてしました」
「へぇ、そうなんだ。嬉しいこと言うね」
「嬉しいんですか?」
「とっても。ねぇ、部屋戻っちゃうの?」
「戻りますよ。怪しまれますから」
「つまんないの」
自分だってわかってる。なるべく早く帰してやらないと。でも、一緒にいたい。だめだってわかるから、なおさら。
「ん、っ」
彼はいつもよりも高いところに唇を寄せ、耳のすぐ下の首筋にキスマークをつける。頭のいい男なのに、勘弁していただきたい。
「…赤葦くん」
「すみません、嫉妬してしまって」
「バカなの」
「そうかもしれないです」
じゃあね、と彼を送り出す前にぐちゅりと舌を絡めたキスをした。1人の部屋はいつもなら居心地がいいはずなのに今日は寂しくて仕方なかった。さっさと朝になればいいのに。
2016/02/18