ギルギルギルティ | ナノ
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「カゴ、俺が持つよ」
「え、ううん、大丈夫…」
「いいって」

何でこんなことになったのか、話すから聞いて欲しいし、可能であればどこが悪かったのかアドバイスもいただきたい。私はいま、七つも歳の離れた男の子と、自分の家の近所のスーパーにいる。制服姿の男の子と、二人きりで。
あの日…と言うのはこの、やたらにでっかい男の子と初めて会った日のことだが。あの日から幾つか、親指で作ったメッセージのやり取りをしていた。お礼と謝罪と、これからの事と。私は何度か、彼を食事に誘ったり、洗剤や焼き菓子でも自宅に送りつけようかと提案したが、そんなことしなくていい、そんなつもりで呼び止めたんじゃないと言われ続けた。いつの間にかその話は萎んでいって、なのにメッセージのやり取りは膨らんでいった。他愛のないことを、やり取りするようになっていたのだ。黒尾くんから送られてくるのは授業のことや部活のことがメインで、それは私にとって、とても懐かしいものばかりで。この歳になって、周りと話す事と言えば仕事の愚痴か結婚出産妊娠、保険の話とかー…とにかく、キラキラしていたのだ、黒尾くんがくれる高校生の何でもない日常は、すっかり大人になった私にとって新鮮で、眩くて、楽しかったのだ。会って話したいと、そんな発言をしたが、これは本心だったし、でも、ただ、そうなる場面を私は想像していなかった。私と黒尾くんは住む世界が違うと、わかっていたから。異国の地に住む人間とでも例えてみればわかってもらえるだろうか。
だって、何度も言うけど、黒尾くんは男子高校生で、私より七つも、歳下なのだ。

「ほんとにいいの」
「ん?」

程々にボロいローファー、もう冬がそこまで来ている。私は去年の冬の終わりにセール価格で購入したストールをマフラー代わりにして、なるべく表情を読み取られないようにしていた。なんか、こう、形容し難い顔になってしまいそうだから。なんでこんなことになってしまったんだろうかと思いつつ、あの本心はやっぱり、本心だから。

「私の家でいいの」

四分の一にカットされた、まださして美味くないであろう白菜を買い物カゴに入れながら、黒尾くんは返事をした。

「みょうじさんこそいいの、俺なんかのこと部屋に入れちゃって」

会って話したいという、私の配慮が足りない発言に黒尾くんはすぐ、返事をくれた。じゃあ会おうよと、そう言ってくれて。で、色々と検討に検討を重ねて、二十五歳になったばかりの女にしては可愛げのない、生活感の溢れる部屋で、会うことになったのだ。そこらのカフェやらファミレスでいいだろうって?いや、だって、考えてみてくださいよ、こんな制服姿の男の子と私みたいな普通のOLってさ、いないじゃん、日常に。この組み合わせが街に馴染むと思います?いや、何度シュミレーションしたって、これっぽっちもしっくりこないですよね、ハイ。私もそんなつもりはなかった。家に連れ込もうとか、そんなアレはなかった。単純にこれが最善だと思ったのだ。ここまでに悪いところなんて、見つからないでしょう?だから今日という日がやって来たのは間違いではないのだ。間違いではないが、ただ、やっぱり。彼と駅で合流して、思った。無理だって。肩を並べてペースを合わせて歩いているだけなのに、とてつもない罪悪感に襲われるから。いや、まぁ、まだ良かったのだ、夜道は。ほら、黒尾くんの制服、ブレザーだし?スーツに見え…ないけれども、すれ違う人は気に留めないだろう。ただ、このスーパーの明るさはいけなかった。煌々と照りつけられた私たちは、どう見たって可笑しかった。せめてもうちょっと雰囲気や顔の造形が似ていたら、少し歳の離れた姉弟に見えただろうか。

「元々、私が提案したし」
「そうだけどさ」
「…なんか、本当ごめんね」
「謝るの好きだね、みょうじさん」
「振り回してばっかだから」
「楽しみにしてたよ、俺」
「え?」
「俺もまた会って話したいと思ってたし」
「…ご飯行こうって言ったら、断ったじゃん」
「業務的?なやつだったじゃん、それは。この間のお礼で会う、みたいな感じだったから断ったの。人参は家にあるんだっけ?」
「にんじん?」
「人参」
「…ある、」
「茸食える?」
「ねぇ、なに、何で今日は来てくれたの」
「さっき言ったじゃん、また会って話したかったから」
「だからそうじゃなくて、前に誘った時は、」
「そん時は、それで終わりって感じだったから」

絹と木綿どっち派?なんて、そんな質問はどうだっていい。ねぇ、と本質に迫ろうとしたが、やめておいた。もうそこまで飛び出していた言葉を飲み込んで、私も鍋の材料集めに加担する。黒尾くんがくれた言葉の意味をどうにか悪い方向へ持っていこうとするが、何度考えたって、同じような意味でしか捉えられない。触れてはいけないところに思いっきり手を突っ込んでしまったような気がして、慌てて引っ込めるものの、もう戻せなくて、いまの一連のやり取りを、綺麗に切り取ってしまいたいほどだ。
さっさと拵えて、さっさと食べて、その間はメッセージアプリでやり取りしていたような波風立たない爽やかな話をして、さっさと彼を帰す。そうしないといけないと思った。そうしないと、絶対、いけないと思った。

2018/10/24