黒尾 | ナノ
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連絡をしても、ほとんど返ってこなかった。返信が3日ないことなんてザラで、それが私を煽っていた。早く会いたいし、話したい。あの日のあの言葉たちがいまだに信じられないから。自分の頭がイかれてしまったとしか思えなかった。

「…黒尾さん、!」

男はびくりと振り返って私を認識すると、はぁと溜息をついた。イヤホンを片方だけ外して言う。何か用?って。

「なんで返事くれないんですか、」
「あのねぇ、俺もそんなに暇じゃないのよ」
「…前は時間あるって言ったじゃないですか。ランニングしてるくらい暇だって」
「だってなまえちゃん、俺のこと好きじゃん。無理なんだよ、そーゆーの」

なんでこんなにもあからさまに振られなきゃならないんだ。私、まだ告白だってしてないのに。まぁ実際のところ図星で、黒尾さんのことは好きなんだけれども。

「それとこれと、どう関係があるんですか」
「…もっと物分かりのいい女だと思ってた」
「…はい?」
「割り切った関係だったら会ってやる。そうじゃなきゃ会わない」

それだけ、ってそう言ってまた長い足を動かそうとするから。ちょっと待ってよって腕に縋り付く。勘弁してくれ、と心底迷惑そうな彼に精一杯かわいい声と表情をつくって言った。

「会いたかったの、」

彼の目は一気に冷たくなって、私の身体を自分の腕から剥がす。怒ったとも呆れたとも違うその表情を、なんと表現したらいいのか私にはわからない。とりあえず口を紡ぐ気にはなったし、彼を怖いと思った。あぁ、いけないところに踏み込んでしまったかもしれないって。

「…ごめんなさ、い」
「二度と言うなよ、その言葉」

コクン、と頷く私を見てちょっと笑った彼は私の髪を撫でるから。
この男のことが全然わからなかった。人助けする今時珍しい善人だと感心したのに、その後に刺すような視線を飛ばしてくる。かと思えば髪に触れる指先は優しくて。

「連絡、もういいから」
「…え?」
「俺からするから、連絡」

お前の意見も意思も必要ないって、そう言われているようで。というか、彼から連絡が来る日なんてあるのだろうか。まずないな、と思う。多分、私以外にもこんな関係を保っている女が片手くらいはいるんだろう。だから自分の出番なんてないとあまり考えなくてもわかった。

連絡が欲しい、会いたい、好きだよ。
それを言うなと言われたら、私から彼に話すことなんてなかった。
なんでこんな人が好きなんだろう。普通、ここまで言われたらあぁまずいって脳が判断してサッと身を引けるはずなのに。

「待てるか?」
「…待ち、ます」
「ん、いいこ」

そう言うと私の首筋をつつ、となぞってじゃあと走り出してしまう。
想像していたよりもずっと、黒尾さんは冷たい人みたいだ。嫌いになりたいのに、なれなかった。こんなに酷いこと言われて、本当なら女友達との下品な恋愛トークのいいネタなのに、多分この感情は誰にも伝えられない。
冷たい彼の瞳に、どうにか熱を帯びさせたいと思った私の負けなのだ。悔しいけれど、負けだ。

2016/03/28