黒尾 | ナノ
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外の気温も少しずつ上がって、朝の天気予報では花粉の量をわざわざ教えてくれたりもするそんな季節。

黒尾さんと出会ってから1週間ほどだろうか。あの道を歩く度に、あのマンションを見る度についきょろりと彼を探していた。背が高かったし、独特の雰囲気があるからその辺にいれば気付くはずだ。でも、全然会えなくて。あの日のあの男は幻かなにかなんじゃないかって思うほどだ。

「こんばんは」
「…!びっくりした、」

驚かせてごめん、って全然反省していない様子で謝るのは、探し求めていた彼。あぁ、やっと見つけられた。正確に言えば自力で見つけたのではなく、彼が見つけてくれたのだけれど。

「変な奴について行ってない?」
「声もかけられてないです」
「あぁ、そうなの」

よかったねってにこりと笑う。
そんなことはいいとして、私は待ちわびていた彼に少し大胆になっていた。

「走ってたんですか?」
「そ。ランニング」

あの日と同様、じわりと滲む汗。走ってもない私が、なぜか心臓をばくばくと煩く動かしていた。いま言わないと、またこんなじれったい想いを馳せながら毎日を過ごさなくてはならない。それだけは勘弁してもらいたいと、精一杯声を振り絞る。

「あの、黒尾さん」

私の歩く速度に合わせ、長い足をゆったりと動かす彼はどことなく上品だ。ん?と柔らかい声。

「この時間帯とか、忙しいですか」
「…いや、見りゃわかるっしょ」

忙しかったら1人でランニングなんかしねぇよ、って笑って。ふにゃりと柔らかい表情は私の緊張を解く。

「この間のお礼がしたくて、ご飯…とか行きませんか」
「あ〜…いやいいよまじで。たいしたことしてないし」
「ちょっとだけでいいので、ダメですか」

やたら積極的だなぁと自分でわかるくらいだった。彼は少し困ったように、どうしようかすこぶる悩んで、言葉を発する。

「いいけど、俺、つまんねぇよ」
「え?なにがですか」
「なんつーか、人として?」
「…なんですか、それ」

その発言が愉快だということに気付かないのだろうか。ケラケラと私が笑うと彼もちらりと笑って。

「じゅうぶん面白いですけどね」
「あぁそう?そんなの久しぶりに言われたわ」
「あの、連絡先…」
「いま携帯持ってねぇから俺の番号登録しといて」

11桁の番号をサラリと伝える彼。連絡してもいいですか?って聞けば彼は呆れたように言葉を発する。

「悪かったら番号教えたりしねぇよ」

いつでもどうぞ、と言われたかと思えばもう自宅の前まで来ていた。じゃあまた、って自然に去っていく彼。
携帯のメモリーが一つ増えただけだ。それがこんなにも嬉しくて幸せだなんて、思ってもみなかった。いつ連絡しよう。今度はそればかりに頭を悩ませるのだ。

2016/03/20