(5/12)



中学に上がって、まぁかつての痴漢事件(若菜はそう言い張るが、裕介にしてみれば断固撤回させたい)は忘れたとして、おおむね普通の幼馴染をやっている二人。
高校受験を間近に控えた幼馴染に付き合って、若菜もおとなしく机に向かう今日この頃である。

学生時代を経て社会へ出た人間は大体、多かれ少なかれ、学生時代にもう少し真面目に勉強をしておけばよかったものだと思うものだ。
例にもれず若菜もそのクチで、こんなチャンスはないとばかりに勉強にのめりこんだ。
中学程度のレベルなれば真面目に勉強しなくとも常識として知る範囲が多いので、めでたくも成績優秀、教師の覚えも良い優等生なのである。

「若菜、ここ」
「んー?」

そんな若菜が裕介の勉強に付き合っているのは、そこそこの学力の裕介の家庭教師をするためである。
学年が一つ上だろうがなんだろうが若菜には関係ない。(両親は「我が子は天才だ」と褒めちぎっていたが、ふたを開ければタダの経験による知識があるからであって、高校に上がればそうもいくまいとは秘密である。)
指さされた問題を覗き込んで、解き方を教える。

「受かるといいね。総北。強豪校なんでしょ?自転車競技部」
「受かるといい、じゃなくて受かるショ。協力しろよ?」

歳を重ねるごとにマイペースでリアリストで冷めた物言いをする、この非社交的な子に育ってしまったのは絶対に自分のせいだと嘆いていた若菜。
そんな彼がロードと言う熱くなれるものに出会って、汗を流している姿を見て涙を流してしまい、裕介に引かれたのは記憶に新しい。
一つの目標に向けて努力する姿は見ていてうれしいものだ。
不器用な裕介の、でも嬉しそうな笑顔を見れればそれでいい。
そのための助力を惜しむつもりはない。

「若菜は問題なく受かるっショ」
「・・・え?私も総北いくの?」
「当然」
「えー・・・?」

とは言え、時々この距離を測りかねる感じは、ちょっと困ると言うか。
幼馴染として側で支えることにためらいはない。
ただそれが恋人として望まれているのであれが話は別だ。
そこの当たり、どの程度の感情なのかが分からないのだ。裕介も、そして自分も。

若菜にとって裕介は、なくてはならない存在だ。
ただ彼に対する恋愛感情があるのかと聞かれると微妙なところである。
なんせ気持ちの中の年齢差は親子ほどある。
前世の記憶を引き継いだままそばにいたせいで、一緒に育ってきたと言うよりも、そばで見守ってたと言う気持ちの方が強い若菜の中で裕介が恋愛対象にはなり難かった。

「総北に行くことにやぶさがでないけど・・・いい学校だと思うし」
「じゃぁ別に問題ないっショ」
「うーん・・・」
「・・・別に、理由なく言ってるわけじゃないっショ」
「と、言いますと?」
「若菜、学校で結構浮いてるショ」
「あぁまぁそれは、確かに」

そこは若菜も自覚したるところだ。
箸が転がってもおかしい年頃の女子の中に交じって同じテンションではさすがにいられず、ちょっと距離を置いてしまうのだ。

「それが心配っつーか・・・目の届くとこにいないと、安心できねぇっショ」

別に若菜を四六時中侍らせておきたいわけじゃない。
というか、四六時中そばにいられるとさすがに辟易する。

ただ、本人はのらくらと周りからの嫌味やプレッシャーもかわしているが、一部の女子からやっかみ買っているのも事実だ。
自分の母親以上に口うるさく何かにつけて小言の多い幼馴染だが、誰よりも腹を割って話して、甘えられる相棒のような存在なのだ。いっそ自分の片割れに近い。
守りたいと言えば大げさすぎるが、自分の眼が届かないところで何かあって、それをさらに隠されるのが嫌なのだ。

「女子が徒党を組んで、自分の違うモノを拒んじゃうのはもう本能みたいなもんだからなぁ・・・」

裕介が何を不安に思っているか、すぐさま察した若菜の発言に思わず苦笑する。
これだから若菜を手放せないのだ。

ちなみに、裕介が何か口に出す前に先読みした若菜があれこれ世話を焼くものだから、裕介の口下手に拍車がかかったことを二人は知らない。

「まぁその辺は上手にやってるつもりだよ。でも裕介がそれで安心ってんなら総北行こうかな?」
「それがいいっショ」

その数か月後。
無事合格を果たした裕介を祝おうと、若菜が裕介の下を訪ねると、目の前に広がる光景に若菜は絶句してしまった。
今まで生きてきて、前世も含めてこれほどまでに衝撃的なことがあっただろうか。
ふらつく足は決して気のせいではあるまい。
それほどまでに若菜にとっては衝撃的で、そんな若菜を見て、驚かれた裕介は若干引き気味だ。

「・・・天国のお父さん、お母さん。息子が非行に走りました・・・」
「いや、両親生きてるっショ。いろいろあるけど、まずそこ」
「天罰を下してください。この罰当たりに天罰下してください」
「なんで親よりも若菜がショック受けて、しかも怒ってんショ」

裕介の緑色に染まった髪を見て、若菜は絶望に打ちひしがれた。

「裕介。なんでその色?染めるのはいいんだけど。・・・いや、良くないんだけど」
「なんでって・・・オシャレっショ」
「いやまぁ確かに似合ってるけどォ!世間ってのは似合ってるから良しとはならなくてね!特に教師と言うのははみ出したやつを、とかく目の敵にするから!」
「だからお前のその妙に古めかしい言い回し何とかなんねぇっショ?」
「大体自転車乗ってる緑の髪って何!?なんかマンガでそんなのあったよ!読んだことないけど!」
「いや、知らねぇっショ」
「結構有名だったじゃん。アニメ化とかされてさぁ」
「オレそっち系興味ないっショ」
「私もそんなに詳しいわけじゃないけど、テレビとかで何とかとコラボだのなんだのやって・・・」

そこで、ふと、若菜は気付いた。
これは前世の記憶だ。

「・・・あれ?裕介の苗字なんだっけ?」
「今更なにを・・・」
「巻島だったね。・・・おや?」

なんだかよく覚えていないが、「緑色の髪」の高校生が「ロード」に乗っていて「マキちゃん」と呼ばれていたことを、なんとなく覚えている。

「・・・・・・・・・・・・おや?」

若菜はこの世に生まれて14年目にして初めて自分が漫画の世界に生まれ変わると言う、漫画でよくある状況にあることを、ようやく知った。


* #
←←
bkm



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -