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私が小学生の頃ってこんなことしてたっけ?いやでも彼氏がいる子って結構いた気もする。あれこれマンガの世界の話だっけ?

現実逃避にかつての過去の記憶を探る若菜。
事の始まりは10分前のことだった。


小学校6年生となった若菜は、数か月後に中学校の入学を控えていた。
一足先に中学へと上がった裕介から、小学校とは全然違うと言うことを、この年(精神年齢)からすれば小学生も中学生も大差ねーよ、と思いながら聞かされていた今日この頃。
修学旅行で同じ班になった、それまで話すことすら稀だったクラスメイトの下田に一緒に帰ろうと誘われたのだ。
その時点で、どういう展開が待ち受けてるのか悟った若菜だったが、悲しいことにトキメキはみじんも起こらなかった。

それはまぁさておき、心もちゆっくりとした足取りの下田に合わせるように歩いていれば告白されたのだ。
青天の霹靂とは決して言わないが、まぁそれなりに驚いた。
幸か不幸か、精神年齢がオーバーサーティの若菜は小学生の割に大人びた子だったので、同世代の子に憧れられていたのを本人は知る由もなく。
所謂「高嶺の花」に下田はこうして意を決して告白したわけである。
予想通りの展開に、内心ちょっと苦笑しつつ、丁重にお断りすると、なぜかはさっぱりなのだが(おそらくマンガの読みすぎ)下田が突然若菜を抱きしめ顔を、唇を近づけてきたのだ。
慌てて下田を押し返した若菜。
傷付いたような顔をする下田だったが、そりゃこっちだ、とツッコミたい気持ちをぐっとこらえてただ睨みつけると、相手はひるんだように後ずさった。


先に断っておくが、これが若菜を現実逃避に走らせた原因ではない。


問題はその後。

優しく、こういうことをしては女の子に嫌われてしまう。人として間違っている言う事を伝え、改めてお断りすると下田は泣きそうな顔で、それでもさっきはごめんと謝って、帰っていった。
こんな場面でも謝れるなんていい子じゃないか、と思っていたら、後ろからランドセルを勢いよく引っ張られ思わず倒れかけた。―――と思ったらやけに細長い腕に受け止められる。
顔を見るまでもない。

「なに?裕介くん」
「・・・・・・・・・」

何やら黒いオーラが出ている・・・気がする。
怒っているようだった。

「・・・今、何してたっショ」
「何って・・・今の見てたの?」

身内に見られるほど恥ずかしいことはない。
赤くなる顔を隠しながら問えば、裕介の眉間に深いしわが寄った。

「あー今のは。別に・・・」
「彼氏?」
「え?違う。告白されたけど、違う」
「じゃぁ!・・・っ、キス、してた・・・」

キスと言う単語を口にするのが恥ずかしいのか、顔を赤くしつつそう言う裕介。
うぶだなぁ、可愛いなぁ、なんて頭の片隅で考えていた。

「してないしてない!やめて!そんな誤解しないで!やめてください!」

裕介の脳内に、自分のキスシーンだなんて言う誤解極まりない映像がインプットされるなんて耐えられない。
一刻も早く忘れろとでも言わんばかりに裕介にかみ付く若菜に、何を思ったのか裕介はじっと見降ろしたまま何も言わない。

「裕介くん、ほんっとーに誤解だからね!迫られたけど全力拒否したんだからね!だからその誤解は一刻も忘れる!さん、ハイ!」
「・・・本当にしてないんだな?」
「うん、神に誓って!」
「告白されるって、よくある?」
「え、なに?急ハンドルー・・・時々、あるよ?」

まぁ一過性みたいなもんだろうから全部断ってるけど、なんて身も蓋もない若菜の言葉を聞いているのやらいないのやら。
いまだにじっと見つめ続ける裕介が、何を考えているのか分らなくてだんだんと怖くなってきた。

「若菜」
「はい?」

そして唐突に、若菜の現実逃避の原因はおこった。

目前に広がるのは見慣れた顔。
そして間違いなく唇に当たってる自分のものではない、なにか。

頭が真っ白になるとはこういうことを言うのだと思った。

「誰かに取られたら死刑」
「・・・え?」
「今言ったこと忘れて人のモンになったらマジで許さねぇっショ」
「あ、はい・・・は?」

なんだなんだなんだ。
もしかしてこれはマンガでありがちが「幼馴染から腐れ縁の延長上の恋人」フラグと言うやつだろうか。
って言うかその裕介のドヤ顔。

真っ白の頭に浮かんでくる様々な記憶、考え。
そしてふつふつを湧き上がる熱。

そうこれはまさに、

「・・・・おいコラ。ちょっとお前、そこに座れ。正座しろ」
「は?何言って、」
「いいから座れってんだテメェ!!!!」

これはまさに、怒りだった。
若菜の剣幕に押されて、裕介は思わず正座してしまった。道の真ん中で。

「いいですか?裕介くん。私はさっきの子にも同じことを言ったんですけど、人様のおいそれと触ってはいけないような場所になんの許可もなく触れるなんて言うのは痴漢と一緒です。最低の行いです」
「いや、それは、ちょっと・・・」
「恋人、夫婦間で行われる行為をとやかく言うつもりはありません。でもね、私と裕介くんは恋人でもなんでもありません!別に赤の他人で触れるのも気持ち悪いほど嫌悪してるとは言いませんが物事には何事の順序と言うものがあってですね!って言うか、中1のガキが何サカってんだってんですよ!何ださっきのオレカッコいいみたいなキメ顔!調子のってっとマジで泣かすぞ!」
「やめてください。もう泣きそうです」
「泣きたいのはこっちです!お母さんそんな子に育てた覚えありません!まったく情けない!!」

怒髪冠を衝くと言わんばかりの勢いの若菜に、もうこれ以上は何も言うまい。
と言うよりも、何も言う気力も怒らない裕介は心の中で滂沱の涙を流した。

「次やったら頭丸刈りにしてやりますから覚悟しとけ!!」

実は若菜がテンパって何が何だか分かっていなかっただけだと裕介が知るのはずっと後のことだった。


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