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あの、と言えば大げさだが、新開隼人に彼女ができたと言う噂は瞬く間に広まった。
そりゃぁ、学校帰りに多数の生徒が立ち寄る、もしくは通りがかるコンビの真ん前であの珍妙な告白劇をやってきたのだから目撃者は多くもなる。

「で?どういう子なんだ?」

ズバリ聞いてきたのは同じクラスにいる東堂だ。

「分らない。だた、すごく面白そうな子だったよ」

昨日出会ったばかりで、連絡先は知っているけど名前は知らないあの子。
すらすらと昨日は緊張した様子もなくゲームを持ちかけてきた彼女だったが、その後がちぐはぐで、それがまた妙におかしかった。



どうやらあそこまでは台本らしきものを用意していたようで、問題なかったらしい。
その後、新開がとりあえず交流深めるためにどこかへ行くかと問えば「今日の今日で?」と驚いていた。
初対面で付き合えと、ゲームを持ちかけてきた女が何を言うのやらと思いつつ、ならとりあえず連絡先を教えろと言えばiPhoneを取り出して、ピンク色の長いネイル飾った指をぎこちなく動かし自分の電話番号とアドレスを探すこと10分(出し方が全く分からない上に覚えていなかった)
逆に新開の連絡先を教えれば登録の仕方が分からないと言って結局新開の携帯画面をカメラで撮って保存していた。

「おめさん、不器用すぎるだろ」
「昨日買ったばっかりだからわからないの!」
「それまで携帯持ってなかったのかい?」
「必要ないもの」

今日日そんなことを言う高校生がいるのか、とある意味感心する新開。

「私は顔見て会話するのが好きだから、あんまりメールとか電話とかに必要性を感じない」
「でもそれじゃ困ること多いだろ?・・・って、それだから買ったのか」
「しょうがないから。新開くんには放課後会いに来るから、多分私から連絡することないと思うけど、気を悪くしないでね?」
「オーケー。オレもマメな方じゃないから」
「それは助かる」
「あ、おめさんもう帰るんだろう?送ってくよ」
「ありがとう。でもすぐそこのバス停からバスに乗るから大丈夫」
「じゃぁ、バスが来るまで」
「・・・うん、ありがとう」

ふにゃり、と嬉しそうに笑うものだからちょっとだけときめいてしまった。

「コンビニ菓子だけど食うかい?」

新開が袋から出したチョコを差し出せば、彼女は礼を言って受け取った。

「このチョコ初めて見た」
「新発売って書いてあったから買ってみたんだ。結構うまいぜ」
「ん、ホントだ。今度私も買おう」
「気に入ったんならやるよ」
「ううん。それはいいよ。ありがとう」

―――会話が続かない。

彼女の方から告白(?)してきたのだから、会話が苦痛だとか、こちらに微塵も興味がないなどと言うことはないはずだが、向こうから話題を振ってくる様子はない。
もしやさっき言ってたように、あくまで新開の方からたずねない限り発言するつもりはないのだろうか。

じっと、こっちを見る気配もない彼女を見つめて、よくよく見れば彼女の耳が赤いことに気付いた。

(あぁ、なるほど)

気軽そうにあんなことを言い出した彼女だから騙されたと言うか。

「もしかして、おめさん今ものすごく緊張してる?」
「・・・・・・してる」

なんなんだ、これは。

「だって、なんか新開くん、じっとこっち見て話すから、なんか、だんだん、恥ずかしく・・・なる」
「人と話すとき、目を見て話すの普通だろ?」
「そうなんだけど、だって、その・・・」

(なんだこれかわいい!)

その時、新開は自分の心臓に小さな矢が刺さったとの確かに感じた。



昨日のことを思い返して、そのことを思いだした新開が思わず口元を緩めると「思い出し笑いとはスケベだな」とのからかい半分、呆れ半分の東堂の言葉。

「なんにせよ、うまくいくことを祈っているよ」
「サンキュ」
「もし何か困ったことがあればいつでも聞くといい!このオレにな!」
「そうさせてもらうよ」

目下、困っていると言えば彼女の名前がわからない事なのだが、こればっかりは東堂に聞くわけにもいかないので、彼の申し出だけどありがたく受け取るだけにした。
今日の放課後にまた会いに来ると言ってた彼女を楽しみに、新開は午後の授業の準備を始めた。


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bkm



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