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今日もまたコンビニ通いの12月某日。

今日の気分は肉まんか、ピザまんか、そんなくだらないことで悩みながら入店し、出るときにはあんまんを握っている。
悩んだ二つがどちらも売り切れだったのだ。なんとなくツイていない。

「ねぇ、ハコガクの新開くんだよね?」

そんな、ちょっとツイてない新開に声をかけてきたのは、一人の女子だった。



後になっても、新開は今日この時の、このタイミングを人生で一番ツイてたと思っている。



「そう言うおめさんは?」

見たところ制服が違うので他校生だろう。
制服で高校が分かるほどの知識がない新開が下した判断は、そんなところだった。
染めこそしないものの、綺麗にカールされた長い黒髪に、少しきつめのアイラインを引いたまつ毛の長い目。
短いスカートに、明らかに指定外のリボンを緩くつけたその姿はよくある「女子高生」そのものだった。

「もう今更だけど、インハイ見たよ」

新開の質問には答えず、彼女はつづけた。

「すごかったね」

そんな単純な感想。
その後に続くのは「準優勝おめでとう」か「準優勝惜しかったね」か。
そのどちらも聞きたくない感想だ。
自転車乗りも誰もが思う。優勝と準優勝じゃ雲泥の差なのだ。
めでたくもなければ、惜しくもない。勝者と敗者いたってシンプルで、だからこそその差が縮まることも、なくなることも決してない。

「楽しそうだった。見ててわくわくした」

そんなことを考えていた新開の耳に飛び込んできたのは、予想斜め上を行った。

「楽しそう?」
「そう。チームで支え合って走って、ライバルと戦って、競って。新開くんずっと楽しそうだった」

しかもペダルを回す新開を見て、その上で「楽しそう」なんて言う感想をいただいたのは、おそらく生涯初だ。
大抵は「怖い」の一言に尽きるのだが、寄りにもよってそんなことを、この目の前の彼女は言うのだ。
驚きもする。咄嗟に言葉を返せずにいる新開を知ってか知らずか、彼女はつづけた。

「それでね、良いなぁって思ったの」
「何が?」
「新開くん」

一歩、近づいてきた彼女に、新開は。
あぁ、この手の展開か、と何とも言えない感想を抱く。

「悪いけど俺、今は・・・」
「知ってる。この間そう言って女の子振ってたの」

他校にまで知れ渡る自分の噂話とは、なかなかにぞっとしない話だ。
さて、一体どんな尾ひれがついているのやらと思わず天を仰ぎたい気分だ。

「でもね、私新開くんが、今とってもつまらなさそうなのも、知ってるの」

毎日一人でコンビニに来てるよね、と彼女は笑った。
見られていたのか、と少し恥じる。

「あんなにあの時は楽しそうだった新開くんの、つまらなさそうな顔見てるのが私嫌なの。だからね、少しだけゲームしましょ?」
「ゲーム?何を突然・・・」
「私の、名前、当てて見せて?それまで、私と付き合うの」
「付き合う、って」
「言葉通り。でも新開くんが私に会いに来たりしちゃ駄目。新開くんに会いに来る私から一杯ヒントを拾って、私の名前を探すの。どう?新開くん、推理小説とか読むんなら、ちょっとおもしろそうだと思わない?」
「おめさん、そんなことまで知ってるのか」
「新開くんは、有名だからね。いろんなこと、ヒントがいっぱい集まってくるよ。ねぇ、どうかな?ダメ?」
「ダメ、と言うか・・・これ、おめさんにメリットがないだろ?ゴールが別れるって」
「そんなことないよ。新開くんが私の名前を分からないままだったら、新開くんずっと私の恋人だもん」
「あぁ、そう言う考え方」
「新開くんは私のことを振りたくなっても、私のこといっぱい観察して、私のこといっぱい考えなきゃいけないの。私は新開くんと少しでも長くいるためにいろんなことを隠し続けるの。倒錯的で面白いでしょ?」
「おめさん、なかなかいいシュミしてんな。オーケー、乗った!」

今までにない告白に、きっと相手は狙ってだろうが、興味をひかれたのは事実なので、もう少しだけ彼女との関係を続けることに決めた。
新開がいつものバキュンポーズで彼女を狙えば、顔を赤く染めた彼女が恥ずかしそうに笑った。

「で、とりあえず俺はおめさんをなんて呼びゃいいんだ?」
「それでよくない?」
「おめさんって?そりゃ不便だな」

それじゃぁ、と彼女はきょろきょろとあたりを見回して、

「じゃぁそれでいいよ」
「・・・これ?」

指さしたのは、新開が持っている食べかけのあんまん。ちなみにすっかり冷え切ってしまっている。

「アンでいいよ」
「とりあえずおめさんが意外に考えなしだってことは分かった」
「・・・やだ、バレた?」

ともかく、お付き合いはこうしてスタートしたのである。


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