familiar




視界が滲んで、頭の中が沸騰したように熱かった。
今まで胸の奥底にしまっていた感情が突然目覚めて押し寄せてくるような熱烈な嘔吐感。
理性を無視して吐き出される言葉に、戸惑う暇も無く。

「悲しい……苦しい……幸せ、なのに……辛くて……」

目の前にいるラストの表情すらわからない。
ただ私の理性は遠くでぼんやりと、自分の声で繰り返される言葉を聴いていた。

理解するのは、いつだって悔いた後なのだ。
そもそも私はどうして他人に無関心に生きていたというのか。
知っていたからだ。愛すれば苦しいことを。欲すれば虚しいことを。

( それならばいっそ、気付かなければよかった、なんて )

( どうして考えることができようか )


頬に感じる温度に顔を上げる。
滲んだ視界に映るのは、優しい黒色。

「ーー当たり前のように感じていたから疑問すらもたなかったものが……孤独を感じて初めて、その本質に気付いたのよ」

「本質…?」

彼女の声は無感情に、冷静に、私の心に落ちた。


「……憂鬱とは、"愛"を知って初めて気付くもの」


引き寄せられた彼女の胸は冷たくて、優しかった。
ラストの腕の中、身じろぐこともせずただ黙って身を任せる。

「もう我慢しなくていい」

彼女の声は小さく、しかしはっきりと耳に届いた。

「本当は……記憶を失う前のあなたに言うべきだったのに」

「ラスト……」

「誰もがあなたを愛していて、あなたを必要としている。だから安心して。私たちを信じて。だって私たちは、

"家族"じゃない」






( 家族、だから )






あのときエンヴィーに言った言葉と重なる。
ラストの腕の中、今度は私が泣いていた。










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