Dear my sister




灰色の天井と壁、部屋には唯二人。
目の前に居るのは私。
背丈も顔立ちも同じ、ただ私には無い、"色"を持っている。

「メランコリーは4人目のホムンクルスだった。兄弟の中で唯一罪の名を持たないーー……」

薄く色付いた唇は、私の声で語る。
"私"は私に近付くと、私の手を取って指を絡めた。

「役割も性格も変わらないよ、今のお前と」

その優しい声音に抵抗を忘れた。
押し倒された先のベッドは二人分の圧力を受け、ギシギシと大袈裟に鳴る。

(近くにある"私"の瞳は、私を映していて)

「ーー本当に、苛つく……」

喉奥から絞り出したような、小さな声。
感情を押し殺すような苦々しい笑顔が私を見下ろす。
脈打つのはどちらの「私」の心臓だろう。
喉元に感じる微かな圧力を受け容れる覚悟ならできている。
しかし首に掛かった手に力を込められることは無かった。

(手を掛ける"私"の指先は震えていた)

そして唐突に、"私"の意味する全てを理解した。



「ーー私は、私を、殺した?」



パリパリと、淡い光が"私"を覆った。
"エンヴィー"は首に手を掛けたまま、私を見下ろしていて



「死に損なった気分はどう?メランコリー」



だけどその瞳がとても悲しそうだったから



「死にたいなら、今度こそこのエンヴィーが殺してやるよ」



「殺されるのも、エンヴィーなら、いいよ」






無意識に、彼の頬を包んでいた






…………







「何で、お前は……」

何度突き放しても、傷付けても、
記憶すら失ってしまっても、メランコリーはまた同じ言葉で全てを受け容れる。

「どうして、泣くの?」

頬に感じる暖かさも、彼女の言葉も知っていた。
この既視感の正体など、今は忘れて

「……メランコリー、何で…」

メランコリーの手を掴んで、腕の中に閉じ込めた。
色を失った華奢な身体を、優しく、抱き締めて。

「……勝手に消えて、勝手に忘れて……どれだけ、寂しかったか……」

「エンヴィー……」

「…ずっと、後悔してた……ずっと……」

ベッドの軋む音も、吐き出した言葉も、全部全部、涙に溶けて消えてしまえばいい。

「……ごめんね」

腕の中の小さな温度は、微かに震えていた。
それは少しでも力を加えれば簡単に壊れてしまう、脆い生命。

「……覚えてなくて、ごめんね……」

メランコリーのか細い声は、涙に濡れて雫を落とす。
一世紀もの隙間。その大きさを改めて実感した。
それは自分だけでなく、記憶の無い彼女も同じことで。

きっとお互い、同じくらい寂しかったのだ。
気付いていたか気付いていなかったか、ただそれだけの差で。
だからこんなにも、涙が止まらない。

( 素直に愛していたら、なんて )

( 後悔は、しない )

寂しかったこと、辛かったことが全部、砂浜に描いた絵のように波に消されて、かわりに望んだものが一度にかえってきて。

「……ねぇ、メランコリー」

滲んだ視界に浮かぶ、罪無き色に問う。

「どうして全てを忘れても、受け容れてくれるの」

彼女の言葉は、優しく胸に響いた。






「家族、だから」








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