reunion
聴こえるのは、ひたひたと鳴る自らの足音と、微かな息遣い。
リオールの仕事が一段落して地下に帰ってくると、そこは見違える程綺麗になっていた。 血の匂いも埃の跡も無い。キメラたちは呻くこともなく、静かに侵入者の影を見張っている。
( そうか、メランコリーが帰ってきたから )
厚く冷たい扉の先。メランコリーの部屋に入る。 相変わらず簡素な部屋に一つだけあるベッド。そこに、真っ白な人影を見た。 ベッドに横たわるそれは穏やかな息遣いを絶やさず、無防備にも安らかに眠っていた。 低いベッドの横に跪くと、メランコリーの顔が近付く。 頬には消えかけた赤い線が見えて、それが少し悲しかった。 彼女の頬に手を伸ばした。しかし、それはメランコリーに触れることなく硬直した。
壊してしまうのだ。 いつだって、触れた手は彼女を傷付けて、血に塗れて。
壊したら、もう元には戻らない。頬の傷がその事実を示している。
( 触れるだけ、たったそれだけのことが、難しい )
「メランコリー……」
呟く声は、メランコリーに聞こえただろうか。 息を吸い込む微かな瞬間。 彼女の頬に、透明な雫が落ちた。
「……なんで、泣くんだよ」
零れ落ちる涙を拭うことすらしなかった。 ただ無意識に、彼女の頬に伝う涙に触れていた。 自らの指先が、暖かい何かに包まれる。 メランコリーの手が、惨めにも震える指を覆っていた。
( たったそれだけのこと、なのに )
( どうして、こんなにも )
あの時触れられなかったメランコリーの指先は、冷たくて
( 愛"かな"しいのだろう )
暖かい
「……おかえり、メランコリー」
……………
目が覚めて初めに見たものは、見覚えのある黒髪の少年の姿だった。 ベッドの淵に顔を埋めるような体制のまま、微動だにしない。 細い腕の隙間から、かすかに寝息が聞こえてきた。 私は小さく、彼の名を呼んだ。
「……エンヴィー?」
ぴくりとして顔をあげた少年は、眠そうな顔のまま目をこする。 目の周りが赤いのは、寝不足の所為、だろうか。
「……何、」
何、と問われても、聞きたいのはこちらの方。なんて、声には出さないけど。 彼も、私の兄弟の一人。 そう思うと、何故か嬉しかった。
「……おはよう、エンヴィー」
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