query
いつだったか。遠い日のメランコリーとの会話を思い出す。
「不思議ですね」
買い物へ出掛けた時の帰り際、ふとメランコリーが呟いた。
「どうしたの?」
「私たち……ホムンクルスの人体構成は人間と一緒で……五感もあって、愛情も苦しみも……感じることができるのに」
彼女は手に持ったアイスキャンディーを見つめていた。
「アイスキャンディーを、おいしいと、感じることもできるのに」
「メランコリー?」
「……人間とは、違うんですよね」
そう言ってアイスキャンディーに口を付けるメランコリーを横目に、私はため息をついた。
「……そうね」
「ねぇ、ラスト」
彼女は無表情に私を見つめた。
「人間と"私たち"の違いって、何ですか」
ーーあの時、私は何と答えただろう。 こうして争う人々を見下ろすと、その答えがわかるような気がするのだ。
「ーー人間はどうしようもなく愚かだわ」
憎み合い、殺し合い、その因果は途切れることなく受け継がれて行く。
「流血は流血を、憎悪は憎悪を呼び、ふくれ上がった強大なエネルギーはこの地に根を下ろし血の紋を刻む…」
「何度くり返しても学ぶことを知らない、人間は愚かで悲しい生き物だわ」
………
「ホムンクルス……」
声に出すと、それが一層鮮明な事実として受け止められた。 人間として生活をしていた頃より安心しているのは、自分が何者であるかを知れたことと、存在意義が生まれたことの所為。 薄暗く寂しい簡素なこの部屋も、私にとって心地よい居場所になるだろう。
ラストが仕事に出てから一週間程経っただろうか。
私は順調にこの地下の生活に慣れていった。 記憶を失くす以前も同じ様な生活を送っていたのだろう。掃除も料理も、キメラの世話も、難なくこなすことができた。 ホムンクルスは、私の他に7人いると云う。 しかし今此処にはお父様と私だけ。他の兄弟たちは、仕事でいない。
簡素なベッドに横たわる。
自分の心臓の音が聴こえるーー否、これは私の核である賢者の石の蠢く音かもしれない。 鼓動に合わせて呼吸が段々と緩やかになる。
安らかな微睡みは、確かに私を明日へと蝕んでいった。
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