fraternal





ーーー遠い記憶。






「メランコリー、大丈夫かしら」

グラトニーが何かを貪り喰う音が響く中、ラストがポツリと呟いた。

「何が?」

「なんとなく、心配なのよ」

ラストは廊下の先へと視線を向けた。つられてその方向を見ると、微かにキメラたちの蠢く気配を感じた。

「グリードが裏切ったことにムカついてんじゃない?」

「そうね……グリードが居なくなってから……」

彼女は何かを考えるように黙り込んだ。骨が砕かれるようなばきばきとした音が響く。

「あの子、何も話さないからわからないのよ。何を考えているのか、何を感じているのか」

「……考え過ぎなんじゃない?」

散らばった骨の破片を横目に、吐き捨てる様に呟くと、その場を後にした。







ーーー






ラストは驚愕と困惑の表情で意識の無いメランコリーを見下ろしていた。
口に当てた手が微かに震えているのは、気の所為ではないだろう。

「……本当に、メランコリーなの……?」

彼女の襟足の髪を掴み取ると、ラストに目配せをした。そこにあるウロボロスの刻印は、紛れもなくメランコリーであるという事実を証明していた。

「生きていたなんて」

「そこが謎なんだよ。あの時確かに……消えたはずなのに」

伸ばした手に触れた温度は、灰となって消えた。
最後の記憶は鮮明に思い出せる。
だからこそ、今目の前にいるメランコリーの存在が不思議でならないのだ。

「どうして真っ白になったのかはわからないけど」

「……予測、だけどね」

ラストはメランコリーを見つめたまま、静かに語った。

「この姿が、元の形なんじゃないかしら。石の力は殆ど残ってないみたいだし……」

メランコリーの頬に微かな切り傷を見た。真っ白な頬に伝う赤い線を見て、石の力ーー再生能力すら残っていないことを知る。

「腿から膝にある導線も確認した。ーーメランコリーに、間違いないよ」

ラストは無表情に彼女を見つめていた。それでも、わかる。
瞳の奥の感情の色ーー死んだ筈の妹が生きていたと云う安堵と喜びが。





………





「とりあえずお父様に報告しておくわ。エンヴィー、あなたはもう少しリオールに居て頂戴」

エンヴィーは返事の代わりに、教主の姿へと変身した。

「言っとくけど、そのメランコリーは記憶が無いみたいだ。もし何かあったらーー」

「わかってるわ」

エンヴィーの言葉に頷く。混乱させない為にも、お父様に会わせる前に彼女と会話をする必要がある。

「……メランコリーのこと、頼んだよ」

そう言った彼の言葉に、隠しきれない情愛の念を感じた。エンヴィーがそんな表情をすることなんて、滅多に無い。
それがメランコリーの存在と関係するものであると考える事に、時間はかからなかった。



その根拠とは何か。

私もまた、彼と同じだから。





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