doubt



どうして自ら死にに行くのだ。
どうして自らを顧みない。

彼女目掛けて振り下ろされようとしている斧。
彼女の背中が、消えて行くメランコリーと重なった。




ーー咄嗟の出来事だった。




肩に食い込んだ斧を片手で摘み上げ、地面に落とす。
割かれた肉体は瞬時に構築され、錬成痕も残さず元の姿に戻った。
呆気に取られる民衆を一瞥し、メランコリーの姿をした彼女に向き直る。
驚愕の表情を浮かべる彼女を抱えると、そのまま協会へと向かった。




…………




コーネロは私を抱えたまま、自室へと向かっていった。
私は未だ、この状況を理解することができない。
あの時、斧は確かにコーネロの肩を切り裂いていて、しかし彼は苦悶の声ひとつ上げず、しかも傷すら残っていなかったのだ。あの時微かに見えた光は錬金術を施行する時のものだった。まさかこれが"奇跡の業"なのか。あの赤い石の着いた指輪の力は、そんな事まで可能であっただろうか。
…それに、何故私を助けたのだろう。元来、コーネロは自分の事しか顧みない性格だった筈だ。身を呈してまで守る必要が今の私にあるとは思えない。

「……コーネロ?」

「……奴なら死んだよ」

頭上から聞こえた声は、コーネロのものでは無かった。

彼の身体が光った、かと思うと、それは見事に変形し、別の人物へと姿を変えた。
私を抱える手はそのまま、長い黒髪と端正な顔立ちが目に映る。
彼は私をベッドの淵に降ろすと、私を見下ろした。
驚きよりも先に、混乱が頭の中をぐるぐると渦巻いている。
どういうことだ、コーネロは死んだ?この少年が、コーネロに化けていた?

「…お前、メランコリーなのか?」

少年は無表情にそう言った。

「……メランコリー?」

「違うのか、どうなんだ」

「それって…」

言葉は衝撃によって遮られた。
彼の手が私の肩に触れた、と同時に、何か物凄い力でベッドに押さえ付けられた。

「ーーー!!何を、」

「…そうだ、最初からこうすれば解ったのに…」

彼は私の首元の髪を掴んだ。得体の知れない恐怖を感じる。
頭上で息を飲む音が聞こえたが、そんなことはどうでもよかった。
疑問は解消されぬまま、この少年の言葉を待つしか術は無かったのだ。






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